いて座
未知へ通じる径を拓く
社会的現象としての予兆
今週のいて座は、アフリカ原住民の見た「鶏」のごとし。あるいは、自分の属するコミュニティ全体の行く末を予感していくような星回り。
人間の知覚=精神の変容の歴史を扱ったマクルーハンの『グーテンベルクの銀河系』には、ある衛生監視員がアフリカ原住民の部落で、衛生上の処理の仕方を映像を見せることで伝えようとした際のエピソードが紹介されています。その映像は作業の様子をゆっくりと撮ったものだったのですが、
「映画を原住民に店、彼らが何を見たかを尋ねますと、彼らは一羽の鶏を見たと答えました。しかし、私たちの方では映画に鶏が写っているということは知らなかったのです!そこで、私たちはこの鶏がどこに写っているのか調べるために、フィルムを一コマずつ注意深く見て行きました。すると果たして、一秒間、鶏が画面のすみを横切るのが写っていました。誰かにおどかされた鶏が飛び立って、画面の右下の方に入ってしまったのでした。これが原住民たちが見たすべてだったのです。」
画面全体を見るというお約束を知らない原住民にとって、映画を見るという行為は画面の細かい部分のみに注目するということであり、同様に、彼らにとって病気は個人のからだの故障などではなく、生活を脅かす未知の顕われであり、個人の悩みである以前に、部族にとっての何らかの予兆であり、社会的な現象だったのです。
27日にいて座から数えて「隠れていたものの露出」を意味する12番目のさそり座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、集団的な不安や因縁を夢や第六感を通して感受していきやすいでしょう。
縦軸と横軸の交わり
鶴崎燃の『海を渡って』という写真集があります。この写真集のテーマは「移民に世界はどう見えているのか」。日本と満州、ミャンマーと日本など、故郷から異郷へと渡ってきた人々の「かつていた場所」と「今いる場所」を対置させていくことで、隔てられた2つの場所、2つの時間を結びつける目に見えない‟糸”の存在を読者にまざまざと感じさせていくのです。
人は皆、縦軸=歴史と未来をつないでいく時間の流れと、横軸=同じ時代を生きる人々によって共有されている空間の広がりが交差する地点に生きていますが、こうした作品を見ていると、地球上でほんの少し座標のずれた地点に生を受けただけで、「これは自分の人生だったかも知れない」という不思議な感慨を少なからず覚えていくはず。
中国からの引き揚げ者やミャンマー移民の背後には、大きな時代のうねりが働いていましたが、それは現代日本を生きる私たちにおいてもまったく同じであり、生ある限り彼らと同じように同じ時間の流れの中で自分固有の物語を紡ぎ続けていくのです。
その意味で、今週のいて座は、まだ自分が知らない未知の地点へと‟糸=意図”を通し、結び付けることで、新たな人生物語の展開をもたらしていくことがテーマとなっていくのだとも言えるかも知れません。
今週のキーワード
イッツ・ア・スモールワールド