いて座
一歩進んで二歩下がる
あえて前書きを書いたことの意味
今週のいて座は、「秋風や殺すに足らぬ人ひとり」(西島麦南)という句のごとし。あるいは、自分の考えが一方的な決めつけになっていないだろうかと自問していくような星回り。
思わずギョッとしてしまう凄まじい句。ただ、前書きには「我に背きし彼の女を恋ふるにあらず憎むにもあらねど」とあり、それなりの事情があったのだろうと思う一方で、通俗的な感じもする。端的に言えば、前書きがなかった方が凄味のある句と言えます。
しかし「殺すに値しない人」という断定をするからには、余程の裏切りにあったか、想像だにしていなかった恥知らずな振る舞いに直面したかのいずれかでしょうが、「果たしてそういうことを自分が仕出かさない保証がどこにあるのか」という自問を経ずにただ感情を吐露しているだけとも考えにくい。
つまり、作者は当然ながら自分もまたいつ何時「殺すに足らぬ」ほどバカバカしい人物になりうるかも知れないということは嫌でも分かっている。分かっていてなお、こういう句を詠んでいる。
そうであってこそ、「秋風や」という詠嘆が、身に沁みて感じられた哀しみや憂いを伴っているのだということが痛感されてくるはず。秋の風は爽やかなばかりでなく、どこか冷たくて荒い風として心を吹き抜けていくのです。
10日にいて座から数えて「主観の極致」を意味する5番目のおひつじ座で火星が逆行に転じていく今週のあなたもまた、自身の行き過ぎややり過ぎをただして、日々を少しでも風通しよく過ごしていくことがテーマなのだと言えるでしょう。
栄枯盛衰を冷徹に見つめるために
シェイクスピアの『マクベス』の最初の場面、雷鳴と稲妻のなか三人の魔女が現れて会話を交わし、その場面の最後「きれいは汚い、汚いはきれい」というあの有名なセリフを声を揃えて唱えるのですが、原文では“Fair is foul, and foul is fair.” でした。
フェアとファウル、適法と反則、正しいことと間違ったこと、という意味です。つまり、人間の世界と魔女の世界とでは、正しいとされていることや価値観が逆になる。あるいは、良い手段と良い結果、悪い手段と悪い結果が、そのまま対応することなく、ねじれていくようなイメージで、岩波文庫の木下順二訳では「輝く光は深い闇よ、深い闇は輝く光よ」という訳でした。
これは単なる言葉遊びではありません。人や物事の栄枯盛衰を長い視点で冷徹に見つめていくことが得られる微妙なる明知の言葉であり、まさに今のいて座に必要な指針と言えるでしょう。
当初は世間や周囲に間違っていると言われた考えがやり方ほど、時を経てやがて正しいことが証明されるものですし、柔弱なものはいずれか必ず剛強なものに勝っていくのです。このことを、今週は改めて胸に刻んでいきましょう。
今週のキーワード
慌てなくても大丈夫