いて座
無念無想を極める
楽器はただ管となって空気を通す
今週のいて座は、夏石番矢の「七本杉俱発声言南無濃霧(なほんすぎぐほつしょうごんなむのうむ)」という俳句のよう。あるいは、自分をからっぽにして一個の楽器のようになっていくような星回り。
一見すると、とんでもないもののように見えるが、声に出して詠んでみると、意外と俳句らしい音数律の枠(五・七・五)が保たれていて、すべての言葉を漢字にしているのも、俳句を無心で純粋な音にするための照れ隠しのように思えてくる。
その意味するところは、七本の杉が並んで、一斉に声を発しているような光景を詠んだものだろうか。どこか日本的な情緒を離れて、ヨーロッパの詩に通じるような雰囲気が流れているが、最後の「南無濃霧」というのは音が面白く、滑稽味を帯びている。
神秘的なんだけれど、別に自分は宗教者じゃないぞと言っているようでもあり、そのあたりはやはり精神性は高いものの明るさやユーモアを忘れないいて座のキャラクターとも通じるところがあるのではないか。
4月1日にいて座から数えて「感情的なしがらみ」を意味する8番目のかに座で、上弦の月("殻破り”の時)を迎えていく今週のあなたもまた、無念無想していくための枠や照れ隠しのための仮面を自分に与えてみるといいだろう。
トールキンisオタク
映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作者J・R・R・トールキンは、『指輪物語』の草稿を執筆しながら、地図やスケッチを描くことで物語に情報を加え、アイデアを試していったのだそう。
物語の舞台となった「中つ国」の地形を、作者としての自分や、自身が生み出したキャラクターの視点を借りたりなど、さまざまな角度から描き出し、そこに漂ってくる雰囲気の中に物語の兆しをとらえていく彼の試みは、先ず何よりも彼自身をとりこにしていった。
彼は文字通り、生徒からの提出物の採点の合間であれ、家族と過ごす休日の最中であれ、時間も場所も状況もおかまいなしに、時間があけばスケッチにとりかかり、その行為に夢中になっていたのだ。
今週のいて座もまた、そんな私的な愉しみのために必要とされる半径数メートルの日常を、どこまでも掘っていくような、静かで深い愉悦の感覚にすっかり支配されていくような時間を大切にしていきたいところ。
今週のキーワード
南無濃霧