いて座
憧れをあぶりだす
何になら人生を狂わされてもいいのか
今週のいて座は、『人間の大地』を書いたサン・テグジュペリのごとし。あるいは、手が届きそうにないけれど手を伸ばさずにはいられない何かを、じっくりとあぶり出していくような星回り。
『星の王子さま』で有名なサン・テグジュペリは国際郵便機のパイロットでもありました。
一口にパイロットと言っても、彼の生きた時代のそれは現代のような花形職種という訳ではなく、まさに危険と隣り合わせの過酷な仕事であり、そんな彼の飛行経験や遭難経験を綴った自伝的作品が『人間の大地』でした。
冒頭付近の文章を引用してみましょう。
「農夫は土を耕しながら、自然の神秘を少しずつ暴いていく。そうやって手にする真実は、普遍的な真実だ。それと同じように、定期航空路線の道具、つまり飛行機も、古くから存在するありとあらゆる問題に人間を直面させる。アルゼンチンでの最初の夜間飛行中に見た光景が、今でも僕の目に浮かぶ。暗い夜の中に、平原に散らばる数少ない灯火の光だけが星のように煌めいていた。」
現代における「農夫」と言えば、普通に働いて、結婚して、子供を作って死んでいく、そんな大勢の普通の人々だろう。そういう人生こそ幸せなのだという考えは一般的なものでもある。けれど、中にはそういう“普通の幸せ”だけでは息ができない人がいる。
何か「それ」に関わっていないと、「それ」に手を伸ばしていないと、息が詰まって死んでしまうようなものを抱えてしまっている人たちが。
サン・テグジュペリの場合は、それが「空」だった。では、あなたの場合は一体何だろうか?
そんなことに、今週はあえてゆっくりと時間を回らせていきたいところです。
「ここより高い場所がきっとある」
今、あなたはどこか収まりの悪い不安定さと未来への期待感のはざまでムズムズしているかもしれませんね。それはまさに、空に飛び立つ姿を地中で夢想している蝉の幼虫のようでもあります。
「あたしの孤独を持ち上げようとするのは小学校でならったライト兄弟の飛行機! あたしの右の翼はあたしの苦しみです。あたしの左の翼は革命です。あたしが飛ぼうとするとき、このさむい空の上から心臓までまっすぐにオモリを垂らそうとするのは誰ですか? あたしは、いつかは飛ぶのです。ここより高い場所がきっとある」 (寺山修司『千一夜物語・新宿版』)
そう、きっと「ここより高い場所」はあり、そこへは自らの翼で羽ばたくのです。今年は行けるところまで行きましょう。
今週はそのための覚悟を決めるにはもってこいのタイミングです。
今週のキーワード
「わたしたちはただ食べて排泄して息をするためだけに生きているわけじゃない」サン・テグジュペリ