いて座
すこうし隠遁
帰りなんいざ
今週のいて座は、「世人との遊びをたちたい」という詩を詠んで故郷に帰った陶淵明のごとし。あるいは、生きることを一時的にやめてみること。
40を過ぎた頃に役人生活に見切りをつけ、県令をわずか80日で辞して故郷に帰り、のちに「田園詩人」「隠遁詩人」として日本で最も愛読されている中国詩人のひとりである陶淵明は、故郷へ帰る際に「帰去来辞」という詩を書いている。書き出しはこうである。
「帰りなんいざ、田園まさにあれんとす、なんぞ帰らざる(さあ家に帰ろう。田園は手入れをしていないので荒れようとしている。今こそ帰るべきだ)」
歴史に残る名文として知られるこの決意表明は通しで読んでいくと非常によい心地がするのだが、今週のいて座にとって特に重要と思われるのは以下の一節だろう。
「帰りなんいざ。請ふ交りをやめて以て游(あそび)を絶たん。世と我と相遺(あいわ)する、またがしてここになにをか求めん。親戚の情話を悅び、琴書を楽しみ以て憂ひを消さん。(さあ家に帰ろう。どうか世人との交わりをやめたい。世間と私とは、お互いに忘れあおう。再び仕官して何を求めようか。家族のまごころのこもった話を聞いては喜び、琴を演奏し書物を読み楽しんで、憂いを消すのである。)」
嫌々仕事をするほど、人生は長くはない。そのことを今週はよくよく噛みしめていくといいだろう。
数寄(すき)
隠遁の内実は、閑居(のんびり暮らす)と道心(悟りを求める志)と数寄心(風流・風雅に心を寄せる)の3つに要約されることができるが、このうち最後の数寄心は、今週のいて座にとって特に大切になってくるだろう。
それは例えば、「ひとり調べ、ひとり詠じて、みずから情を養うばかり」(鴨長明『方丈記』)といったスタイルの中で、この世界とのより直接的で自然なかかわりを取り戻していこう、というもの。逆にその正反対が、以下のような状態だ。
「世にしたがへば、心、外の塵に奪はれて惑ひやすく、人に交われば、言葉よその聞きにしたがひて、さながら心にあらず。人に戯れ、物に争ひ、一度は恨み、一度は喜ぶ。そのこと定まれることなし。分別みだりに起こりて、得失やむ時なし。惑ひの上に酔へり。酔の中に夢をなす。」(吉田兼好『徒然草』)
「よその聞き」は他人がどう思うか、「分別」というのは、ああだろうか、こうだろうか、という思い悩みで、「得失」とは損得勘定のこと。忙しさに酔っているだけで、我を忘れてしまっているのだ、という最後の箇所は特に痛烈な印象を受ける。
今週のいて座は感性を洗練させ、自分を磨いていくことを第一に考えていくといいだろう。
今週のキーワード
人生は短いゆえに