いて座
旅人の文体練習
旅としての人生
今週のいて座は、「朝空をわたれる鳥の消ゆるまで眺めてをりぬ旅人のごと」(前登志夫)という歌のごとし。あるいは、この世に何を遺し、どこへ向かって飛び去っていくべきか、思案していくような星回り。
改めて注意してみると、普段私たちはほとんどの時間を過去に心を引っ張られたり、現在にいっぱいいっぱいになりながら過ごしている。
未来と言われても、ただなんとなく漠然とした不安を心の隅のほうで漂わせているのが関の山だろう。そうして、なんだかんだと人生を終えてしまう人もいるのかもしれない。
掲歌は、作者の全歌集の最期に置かれた歌だ。
そしてこの歌は、人は誰しもが時間と空間を旅しており、普段はそれを忘れていても、ふたしたことで天地が澄みわたって旅をしている自分の姿が垣間見える瞬間というものがあるのだということを思い出させてくれる。
今週は、日頃から幻影ばかりを追いがちな意識の先を、さっと遠くの方へと向け変えていくことで、旅人としての感覚を取り戻していきましょう。
リズムと文体
文豪ディケンズは、日々の日課として、また創作のヒントを得るため、あてどない散歩にいそしんだと言われています。
散歩やぶらつきというと、仕事の生産性に直接関係しない無意味な時間と思われるかもしれませんが、手も足も自由な暇な時間や、意識の空白というのは、日常から一歩離れて生の全体を見渡すためには欠かせない必要条件でしょう。
例えば、俳句の5・7・5というリズムは、古代の舞踏のリズムや、海洋民がオールを漕いでいたときのリズムにその起源があるとも言われていますが、いずれにせよ座ったままの状況からはリズムは生まれてこないのです。
ただじっとしていると、どうしても言葉が煮詰まってきて、スムーズに流れなくなる。
その意味で、今週は歩くリズムや、踊るリズムなど、自分に合ったリズムを身体に刻んでいくことで、自分なりの文体、すなわち日々の過ごし方を改めて整えていくといいでしょう。
今週のキーワード
自分なりのリズムと身体尺