
うお座
寂しさと恋しさと、欲の強さと

根源的情緒の話
今週のうお座は、「寂しさ」の自己肯定における相としての「恋しさ(エロス)」のごとし。あるいは、自身の中で積み上げられた「欲」と「寂しさ」の強度を、改めて確かめていくような星回り。
誰かと出会うことで「他ならぬ私」というリアリティを手に入れ、さらにその中でこれまで眠っていた自己の可能性が一気に活性化していくという体験がもっとも際立った形で現れるのが「恋」という現象ですが、これはどのような特性をもった感情なのでしょうか。
たとえば哲学者の九鬼周造は『情緒の系図』において、人間がもつ情緒を「主観的感情」、「客観的感情」、そして主客に関係なく「緊張と弛緩の双方向性をもつ感情」の3つに分けています。
はじめの2つはともにその中身が快不快を基本とするのに対して、3つめのそれは「欲」や「驚き」などに代表されるように、不快ゆえの快というような不思議な状態にあること、そしてそれは突然の出来事による緊張からもたらされるものであると分析した上で、九鬼は最終的に「欲」と「寂しさ」こそが人間存在の根本であると結論づけています。
人間が個体として存在する限り、存在継続の「欲」と、個体性の「寂しさ」とを、根源的情緒として有つことはおのずから明らかである。「欲」と「寂しさ」の在るところに個体が在ると云ってもよい。そうして「寂しさ」は一方に自己否定に於いて「哀れ」と「憐み(アガペ)」へ放散すると共に、他方に自己肯定を於いて「恋しさ(エロス)」の裏付けに集中する。
つまり、緊張と弛緩の感情である「欲」と主観的感情である「寂しさ」とは、その裏面に客観的な感情すなわち外部の対象へと向かう感情としての「哀れ」や「憐み」、そして「恋しさ」を持つのであり、より簡潔に述べれば、人ひとりが存在するとき、そこには必ず「寂しさ」があり、その一方で「恋」を通して他者を求められずにはいられないのです。
6月11日に「自己肯定感」をもたらす木星がうお座から数えて「表出」を意味する5番目のかに座に移っていく今週のあなたもまた、不意に駆られた「恋しさ」の裏に、自己の抱えた「寂しさ」や「欲」を改めて探りあててみるといいでしょう。
ある航空管制官と夜の闇
例えば、サン=テグジュペリの『夜間飛行』は、まだ夜間飛行が命がけの試みだった時代に郵便事業に命をかけた人びとを描いた小説なのですが、その主人公リヴィエールは、欧州から南米間の航路を受け持つ責任者であり、「嫌われ者の上司に睨まれることで初めて現場の規律は保たれる」という信念のもと部下に1つのミスも許さない厳しい姿勢をとる上司でもありました。
彼は内心の葛藤や孤独に苦しみつつも、それを紛らわすために繰り出した散歩からの帰り道、ふと見上げた夜空の星に何かを感じ取ります。
今夜は、二台も自分の飛行機が飛んでいるのだから、僕はあの空の全体に責任があるのだ、あの星は、この群衆の中に僕をたずねる信号だ、星が僕を見つけたのだ。だから僕はこんなに場違いな気持ちで、孤独のような気持ちがしたりする
人間にとって夜とは、ある意味で死に近づいていく時間帯であり、だからこそ夜の底に埋もれた宝物を再発見することが、改めて生を更新するための原動力にもなるのでしょう。
その意味で、今週のうお座もまた、他の誰かのために時間を割くだけでなく、かならず自分自身のいのちを養うのための時間を確保していくことをどうか大切に。
うお座の今週のキーワード
「星が僕を見つけたのだ」という感覚





