
うお座
記憶の光景

遠くにありて思うもの
今週のうお座は、『月の出の風吹きかはる遠山火』(本村蛮)という句のごとし。あるいは、長い時の隔たりがあってもやはりつながっているのだということを実感し直していくような星回り。
早春は、1年のうちで最も山火事が発生しやすい時期であり、落葉が枯れつくし、空気が乾燥するため、わずかな火種でも大火となってしまいます。ただし、この句の「山火」とはそうした山火事のことではなく、古くから山林や原野を焼き払ってその灰を肥料とするための焼き畑や、春先に新芽の成長をうながすために行われる山焼きのことでしょう。
さえぎるもののなくなった辺り一帯を燃やす火の赤は、あちらこちらから次々と方向を変えては吹きすさぶ風のあおりで、まるで生き物のように蠢き回りつつ、遠くの方へと移動していく。そのどこか神秘的な光景は、爛々と地上を照らし出す「月の出」を受け、ますます凄みを帯びて、どこか原始の饗宴を連想させるようなこころの昂ぶりをもたらしてくれます。
科学的な厳密な知識などなかった遠い昔、不可解な出来事は神や精霊など「見えない力」によるものであると考えられ、人びとは彼らの生活や生死を司るそれらに祈りを捧げ、祭りを行ってきたわけですが、掲句を読んでいるとどういうわけか、そうした現代人が失ってしまった古代の秘儀の名残りのようなものを感じさせてくれるはず。
3月14日にうお座から数えて「向き合うべきもの」を意味する7番目のおとめ座で月食満月(大放出)を迎えていく今週のあなたもまた、慌ただしい日々の中で自分がいつの間にか失ってしまったものや、取り戻すべき感覚を思い出していきたいところです。
心を虚しく思い出す
「多くの歴史家が、一種の動物に止まるのは、頭を記憶で一杯にしているので、心を虚しく思ひ出す事が出来ないからではあるまいか」という小林秀雄の言葉を借りれば、今週のあなたも、まさに心を虚しくして今の自分に必要で、かけがえのない記憶を思い出していくことができるかどうかが問われていくでしょう。
消えてなくなったら寂しい、思い出せたら嬉しい、そんな当たり前の感情を、しばしば私たちはつまらない意地や屁理屈で台無しにしてしまいます。小林は、先の言葉の前に次のような1文を添えています。
思ひ出が、僕等を一種の動物である事から救ふのだ。記憶するだけではいけないのだらう。思ひ出さなくてはいけないのだらう。(『無常という事』)
今あなたは、いったい何を思い出そうとしているのでしょうか?
今週のうお座は、不意に想起されてきたものを、しっかりと生活に結びつけ、そこから力を得ていくべし。
うお座の今週のキーワード
原始の饗宴





