
うお座
はい、ほっこりはん

冬場のホッカイロのように
今週のうお座は、『女あたたか氷柱の雫くぐり出て』(西東三鬼)という句のごとし。あるいは、厳しい現実を生き延びていけるだけの新たな熱源を手に入れていくような星回り。
作者が北陸を旅行したさいに詠まれた句。大雪が降ったあとなのでしょう。民家の軒先には「氷柱(つらら)」が垂れさがっており、家々もまたさむざむとして薄暗く感じられたなか、不意にある家の中から女の人が出てきて、そこだけあたたかく感じられたのだと。
とはいえ、元気いっぱいな子どもや10代のうら若い乙女ではないのでしょう。ほんのりとそこだけ明るく光を放っているように感じられたというのですから、20代後半から30代半ばにかけての女盛りの頃合いのように思われます。
そんな人が、あたりの寒い空気を寄せつけないかのように、「氷柱の雫をくぐる」という何気ない仕草で外へと出ていった。ただそれだけの事実に、作者の心はあたたかさを感じ、半ば救われるような気持ちになったのです。
そうして掲句に詠まれたわずか数瞬の出来事は、ポケットの内側にいれられ続けたホッカイロのように、おそらく長らくゆっくりと作者の心の中で再生させられ続けていくはず。
2月5日にうお座から数えて「サバイバル」を意味する3番目のおうし座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、凍えてしまいそうな自身の心をそっと温めてくれるような出会いや発見に見舞われていくことになるでしょう。
「ほっこり」
「ホッカイロ」と似たオノマトペとして、ほっと一息ついたり、心温まる気持ちになったことを表す「ほっこり」があります。「ほ」も「こ」も「り」もいずれも空気の擦れた音が連続するこの擬音表現は、どうも人に息をとことん吐かせるように出来ており、その点にこそ本質があるように思われます。
つまり、重い荷物を長いこと背負って下ろしたときの安堵感とともに漏れる吐息にしろ、これ以上のないというほど目まぐるしく忙しい1日をやっと終えたときの嘆息にしろ、とにかくそこには重たくなった身をほどいて羽を伸ばすときの解放感があるのです。
さらに語源に目を移してみると、「火凝る」つまり物を焼くという意味の他動詞の連用名詞形である「ほこり」に景気づけの促音「っ」をつけたのが「ほっこり」だという説があります。これはその「ほこり」の語幹「ほこ」を重ねた「ほこほこ」から「ほかほか」や「ぽかぽか」など南洋の太陽の下を感じさせる温暖な副詞や「日なたぼっこ」という言葉が生まれたことからも確かであると感じさせられます。
ちなみに、「ほっこり」に関しては「ぼける」「ぼんやりする」という意味の「惚く」という動詞の名詞形「ほけ」から「ほけあり」という形容動詞が生まれ、それが縮まったものという説もあるそうですが、こちらも真偽はともかくとても可愛らしく、現代の若い女性がその意図で使い始めてもおかしくないという気がします。
今週のうお座もまた、自分が生き延びていくための手段としての「ほっこり」という言葉の使い方やコミュニケーションを編み出していくべし。
うお座の今週のキーワード
とことん息を吐いていくこと





