うお座
橋の上で入れ替わる
不思議なやすらぎの方へ
今週のうお座は、『立春の米こぼれをり葛西橋』(石田波郷)という句のごとし。あるいは、一見矛盾する感情がどこかから降って湧いてくるような星回り。
戦地である中国で肺を病み、終戦直前に日本に帰還してきた際に詠まれたもの。作者は疎開先から、江戸川区葛西に住む義兄をたよって上京してきたのですが、「葛西橋」は当時の東京では一番長い木造の橋でした。
作者はそんな橋の上に、ほんのわずかの米が散っていたのにふと気が付いたというのです。食糧難の時代、米は特に貴重なものでしたから、普通ならもったいないという思いが先行するはず。もちろん作者にもそういう思いはあったかも知れませんが、それだけではなかった。むしろ、何かしら不思議なやすらぎのようなものに包まれたのではないでしょうか。
そして、それは「立春」というタイミングにその橋に立っていたことも決して無縁ではないでしょう。こぼれている米の白さは、寒々しさに覆われていた東京にやってきた春の色であり、少し先の未来からやってきつつある待ちに待った平和の色でもあった。少なくとも、作者にはそう感じられていたように思います。
2月3日にうお座から数えて「予知」を意味する9番目のさそり座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、なぜこんな風に思うのか、その場ではすぐには分からないような感情をこそ道しるべにしていきたいところです。
自分が入れ替わる予感
隆慶一郎原作の『影武者徳川家康』は、主人公であるはずの徳川家康が実は関ヶ原の戦いで開戦早々に暗殺されてしまい、その場の機転で影武者と入れ替わり、そのまま徳川家康として生き続けていくというところから物語が始まっていきます。
影武者の名は、世良田二郎三郎元信。もともとは芸能や各種専門技能に携わりつつ全国を自由にさすらう「道々の輩(ともがら)」という賤民階級の出身で、ひょんなことから拾われて家康の影武者を10年間つとめた末の交代劇でした。
もちろんこの作品はあくまでフィクションではありますが、名前は以前とまったく同じでも、中身はまったくの別人へと変わってしまう機会というものが、人生には何度も繰り返し用意されているものなのではないでしょうか。
今週のうお座もまた、少し先に待ち受けているであろう人生の分かれ道や、別人への交代劇の予感が不意に湧き出してくるなかで、何事もなく過ぎていく日常が今後も変わることなく続いていくであろうという自己催眠がうすれていくことでしょう。
うお座の今週のキーワード
境界線上の領域に立つこと