うお座
雪、故郷、錬金術
土着の芸術の深み
今週のうお座は、『闇夜(やみのよ)のはつ雪らしやぼんの凹(くぼ)』(小林一茶)という句のごとし。あるいは、危険信号をきちんと受け止めていこうとするような星回り。
しーんとしみいるような寒い闇というのは、現代の都市部に暮らす人びとの間ではもはや想像することすら難しくなってしまいましたが、それでも掲句は信州の山間に居を定めて暮らしていた人間のリアリティーをよく伝えてくれているように思います。
「ぼんの凹」というのは首の後ろのうなじにあるツボのことで、要は人体の急所であり、弱点ですね。そこに、ひやりと雪がさわった。それはとてもじゃないが、「わーい、雪だ!」などとはしゃぎまわるようなものではなく、じつに嫌な雪なんです。
冷たい裸体のような山に囲まれて、いよいよこちらの身まで脅かされてきたなあ。こうなってくると、いよいよ冬ごもりは辛いなあ、はやく春が来ないかなあという気持ちが、体の奥底からじんわりと滲んでくる。
しかしにも関わらず、そうしたなまなましい「いやな感じ」が弾むような語感で詠まれているところが、何とも言えない笑いを誘うわけです。これを田舎者のあっけらかんとした逞しさと言うべきか、作者の技巧がなせるわざとすべきかは正直わかりませんが、前衛芸術にはない土着の芸術の深みというのはこういうところにあるのかも知れません。
1月4日にうお座から数えて「穴や弱点」を意味する8番目のてんびん座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、不意に感じた「いやな感じ」をスルーする代わりに、むしろ自分の武器へと変えていきたいところです。
一茶と故郷の雪
今では江戸時代の三大俳人のひとりとされている作者=小林一茶ですが、彼は幼い頃に奉公に出されて以来暮らしてきた江戸を45歳頃に離れ、異母弟との遺産争いのため、故郷の信濃へと戻りました。
もう決して若いとは言えない都落ちのような帰省、しかもこれまで放置してきた実家の財産を分けろと言いにきた一茶に対し、家族や村人は冷たいものでした。ただ、そんな状況のさなかでも、冷たい雪だけは暖かく自分を迎えてくれているように感じたようで、この時「心からしなのの雪に降られけり」という句を作っています。
幼い頃から慣れ親しんだ信濃の雪に「心から」降られた一茶は、おおいに励まされたのでしょう。ここから、自分の人生は改めて始まっていくのだ、やるしかないのだ、と。結果的にこの時の交渉はうまくいかず、一茶は何の成果もなく寂しく江戸へ帰っています。しかしその後、5年の歳月をへて、一茶はほぼ半分近い財産を手にしたのです。
気力体力の衰えた中年にして孤立無援の一茶でしたから、もし故郷の雪の後押しがなかったなら、そこまで粘れなかったはずですし、先の句だってそこまでの深みは持ちえなかったのではないでしょうか。
ある意味で、一茶は半生をかけて故郷の「いやな感じ」を自身の財産へと変えていった訳ですが、それは今週のうお座の人たちにとって大いに指針となっていくはず。
うお座の今週のキーワード
背景の力