うお座
目に見えない交流の活発化
現代では失われた感覚
今週のうお座は、新田義興の怪異譚のごとし。あるいは、夢と現とにかかわりなく真実に触れていくような星回り。
夢は日本人にとって長いあいだ、現実よりもはるかにたしかな真実であり、神などの超自然的存在が人間にその意思を伝えるひとつの方法であって、けっしてまぼろしや不確実を意味するものではありませんでした。
たとえば、国文学者の諏訪春雄の『日本の幽霊』には、夢だけでなく現実の中にさえ亡霊が現れたという新田義興の怪異譚について紹介されています。
当時、武蔵国荏原郡矢口村の矢口の渡しにおいてだまし討ちで亡くなったこの武将の死にわずかでも関わりをもった人のあいだに、不思議な夢見や怪現象がおき続け、近隣の住民らによって新田神社を建立することでようやくおさまったと言われています。しかも現在も東京都大田区にある新田神社では、義興の怨霊を鎮める祭事が続けられているのだとか。
心にやましさの一点でもある人たちにとって、怨霊の出現は、夢と現とにかかわりなく真実である。
このように、目覚めた人びとの前に出現した怨霊を「現(うつつ)」と呼んでいたように、現れる怨霊だけでなく、それに対する人びともまた夢と現の違いに関心を払っていなかった訳ですが、こうした感覚はもはや現代ではすっかり失われてしまいました。
しかしそれでも、今もなお一部の夢にあらわれる亡き人の霊は、日本人の夢に対する長きにわたる信仰を背景に背負って登場し続けており、その意味で私たちはそうした夢と現をこえた真実味を通して信仰心を維持しているのだとも言えます。
13日にうお座から数えて「破れ目」を意味する9番目のさそり座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした日常とは異なる深いリアリティーの層に開かれていくことで、ひとつの意思を宿していくことになるかも知れません。
日本語の<ア>の響き
例えば、ことばの発音ということで言えば、子音は気の集中であり、母音は発散であり、また子音は分節にかかわり、母音は連続性にかかわるのだそうです。そして、音楽的には子音はリズム(拍)にかかわり、母音はメロディーないし響きにかかわる。
森田澄夫の『言葉が声に及ぼす影響』によれば、日本語とイタリア語はともにア・イ・ウ・エ・オという5つの母音を使いますが、日本語の場合は“浅間山”や“荒川”など、<ア>の母音の占める割合がイタリア語に比べて格段に多いのが特徴で、「浅い言葉」と言えるのだそうです。
逆に言えば、イタリア語の方が、必然的にことばをより強く響かせて相手に伝えようとする積極的な意志が必要とされ、同じエネルギーを発散させるのでも、思いきり集中させておいて発散させるのだと。
つまり、同じ<ア>の発声をするのでも、イタリア語や中国や朝鮮語のそれに近い発音と比べても、日本語は気楽な感じで、それだけことば(音声表現)に頼っているというより、もっと身体の直接的な共鳴に頼っているのだいうこと。
その意味で、今週のうお座もまた、明確な形を伴わない流動的な気体になったつもりでさまざまなに他者や世界と入り混じっていくことになりそうです。
うお座の今週のキーワード
響きと交わり