うお座
ユーフォリアを物差しに
土人でいいんですよ
今週のうお座は、戦時中に南島で「土の人」と同化した水木しげるのごとし。あるいは、「働かざるもの食うべからず」という労働倫理をいったん脇においていくような星回り。
現代の日本社会には、どこかで「暇そうにしてたら格好悪い」という考えが根づよくはびこっているように思います。それで、本当は暇であってもつねに多忙なフリをしてしまう人なんかもで出てくる訳ですが、そうしてバツの悪い思いをしているくらいなら、いっそ水木しげるのように、反対方向に舵を切ってみるのも手でしょう。あるインタビューの中で、水木サンはこんなことを言っています。
南方の人間は、朝起きると朝からゲームをやったりして、遊んでるんですよ。そして午前中だけ働けばいいんです。畑にちょっと歩いて行って、イモを植えときゃいいんです。(中略)彼らの考えの中には働かないことの幸せっていうのがあるんですね。ぼんやりしている。ゆったりした暮らしっていうのを彼らは幸せの基準にしている。(後藤繁雄編『独特老人』)
あんまり金儲けずに幸せであるという形は、いわゆる日本ではいけない言葉ということになってるけど、「土人」ということね。土の人っていうね、あれはいい言葉なんですよ。人間は土から生まれて土に帰るわけですからね。土人でいいんですよ。土人というのはいいもんだなあと思って観察しておるんですよ。(同上)
もちろん、それなりの金を獲得しつつ、自由な時間を確保するというのが最高ではあるでしょう。けれども、9月23日にうお座から数えて「一つの終わり」を意味する8番目のてんびん座への太陽入り(秋分)を迎えていく今週のあなたもまた、いっそ土人になったつもりで、「働かないことのしあわせ」ということから始めてみるといいのかも知れません。
地獄のまっただ中で
『水木しげるのラバウル戦記』によれば、派兵先で上官にひっぱたかれてばかりのダメダメ兵士だった水木さんですが、実際なぜか土人たち(敬意をもってこう呼んだのだとも書いている)には好待遇を受けて友情を育んでいけたのだとか。
敵の急襲で片腕を失ったり、マラリアにかかって死にかかっているはずなのに、すごくあっけらかんとしていて、そのあまりの呑気さや楽天ぶりが読んでいるとおかしくてたまらない。けれど、兵として空気が読めずルールにも無頓着でおかしな奴だと思われていた水木さんが、ただ一人まっとうな人間であることを、きっと土人たちは肌で感じ取っていたのでしょう。
暴力がどこまでも連鎖していく戦地という地獄の真っ只中で、水木さんは自分を理解し、受け入れてくれた土人たちと牧歌的な日々を過ごし、戦争が終わって船で島を離れる時も、やっと帰れる喜びでみなが泣いている中、ひとり本気で彼らと別れることが悲しくて泣いていたという。
今週のうお座もまた、日常がすでに非日常化している現在の社会のような状況下で、誰とどんな状況でいる時に最も「まっとう」な自分でいられるのか、改めて実感していくことになるはず。
うお座の今週のキーワード
ユーフォリア(多幸感)は大抵あんまり金儲けずにしあわせであるという形をしている。