うお座
緊張を和らげる者
人助けは「ついで」の産物
今週のうお座は、香港の魔窟チョンキンマンションの「カラマ」のごとし。あるいは、ただただ空気清浄機のように周囲の空気をよくしていこうとするような星回り。
カリスマ的リーダーでもなく、優秀な実力者でもないような在り方で、組織のよき変化をもたらすには、いったいどのようなモデルが相応しいのか。そんなテーマで思い出される人物に、文化人類学者の小川さやかの『チョンキンマンションのボスは知っている-アングラ経済の人類学-』に登場する、香港の魔窟チョンキンマンションで「ボス」として地下経済をとりしきるタンザニア人のカラマがいます。小川は彼ら香港の独立自営業者について次のように描写します。
彼らは、思いつきのように異国の地にやってきて、中古車や中古家電、天然石の仲介、交易人のアテンド、ときには裏稼業にいそしんでいる。その時点で勇気ある「起業家」だが、浮き沈みはジェットコースターなみで、月に2万ドルも稼ぐ敏腕ビジネスマンが別の月に100ドルしか稼げないこともざらだとか。しかも銀行や保険会社のような既存の制度に期待をかけない。仲間のことも信用しない。そのうえ、騙されても、「あいつは今大変なんだ、誰だって窮地に追い込まれたらああなるさ」と懐深く受けとめ、助けるべき人とそうでない人を線引きすることなく手をさしのべる。彼らの人助けは「ついで」の産物だという。だから、「あのときあんなに親切にしたじゃないか!」と憤ったりしなくてすむし、助けられた側の負い目も少なくなる。
そんな「ついで」によって繋がる自営業者たちのネットワークを取り仕切っているカラマは、さしずめ権威の象徴として「王」のような存在ではなくて、みんなと一緒に暮らしながら、みんなが抱える問題を解決していこうとする「酋長」的な存在なのでしょう。酋長は神秘的な「シャーマン」とも違って、あくまで規則や良識に従い、社会に平和をもたらそうとしていかねばならず、それこそが「政治」ということの根源でもあるのです。
24日にうお座から数えて「責任」を意味する10番目のいて座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、カラマのような大らかでいて誇り高いひとりの「酋長」として、どうしたら周囲の空気をゆるやかなものにしていけるかということが問われていくでしょう。
政治的なふるまい
実際に南北アメリカのインディアン社会を参与観察したアメリカの文化人類学者ロバート・ローウィが1948年に発表した論文によれば、部族社会において酋長が備えているべき条件は以下の3つなのだそうです。
①酋長は「平和をもたらす者」である。酋長は、集団の緊張を和らげる者であり、そのことは平和時の権力と戦時の権力が、たいがいの場合は分離されていることに示されている。
②酋長は、自分の財物について物惜しみしてはならない。「被統治者」によるたえまない要求を斥けることは酋長にはできない。ケチであることは、自分を否定するに等しい。
③弁舌にさわやかなものだけが、酋長の地位を得ることができる。
超自然的な力や霊との交わりによって神の化身と成り得た古代的な王(シャーマン)の場合、その権力は絶対的なもので、みずから軍隊を動かし戦争をすることができますが、ここでいう酋長が戦争の指導者が同一であることはほとんどありません。
酋長とは、あくまで平時の権力であり、あくまでみなと一緒に暮らしながら、みなが抱える問題を解決していこうとする存在なのです。その意味で、今週のうお座もまた、誰か何かと戦うためにではなく、不和や争いを解消するためにこそ力をふるっていくべし。
うお座の今週のキーワード
ケチであることは自分を否定するに等しい。