うお座
奇妙でいびつなものたちのために
心地よい破調
今週のうお座は、『寒き電線絡み入るスナック純』(坊城俊樹)という句のごとし。あるいは、心地よい設えへとするりとこころをすべり込ませていくような星回り。
「スナック純」といういかにも昭和の場末感の漂うネーミングと、それをあえて俳句に取り入れてくるあざとさに思わず唸る一句。
一読して、中年のママがひとり、よくてそこにバイトが一人入る日もあるような、どこか郊外の町の盛り場に並ぶ小さな店がイメージされてきます。それからもう一度句を頭から読み直してみると、店の様子自体はなにも描かれておらず、代わりにまるで店内へと誘うかのように「絡み入る電線」が描写され、それをただ「寒き」と眺めている。
この時期の外気があまりに身に沁みるのか、それとも内側がうすら寒いのか。その明確な判別をかき消すかのように「スナック純」はそこにあり、今日も客を迎え入れている。
言葉のリズムも五・七・五からは大きく外れ、決してきれいな流れには収まっていない。ただそれは、きれいごとでは済ますことができないからこそ場末の盛り場へ飲みにやってくる人間たちにとっては、むしろ心地いい設えにもなっているのではないでしょうか。
12月30日にうお座から数えて「愛着」を意味する2番目のおひつじ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな作者にとっての「スナック純」のごとく、妙に心地よく、愛着さえ感じてしまう奇妙でいびつなものたちに、ゆっくり心ゆくまで浸ってみるべし。
不完全の美
どんな人間であれ、この世にすっと誕生したかと思えばあっという間にまたあの世へと帰っていく、ひどくあっけなく、はかない存在です。
ともするとネガティブな印象を抱きやすいこうした「はかなさ」について、例えば岡倉天心は「真の美はただ不完全を心の中に完成する人によってのみ見出される」という言い方で肯定的に捉えていこうとしました。
「はかなさ」とはこうした自分や人生の不完全さを感得しつつ、それを想像力の働きによって完成させる、日本人がその長い歴史を通して育んできた美意識の要諦であり、彼が茶の本質とした「人生という不可解なもののうちに何か可能なものを成就させんとするやさしい企て」という定義もまた、そうした美意識と表裏の関係にありました。
その意味で今週のうお座もまた、そうした「不完全の美」ということを、自分なりの文脈でいかに企てていくことができるのかを改めて問われていきそうです。
うお座の今週のキーワード
『ザ・ノンフィクション』を地でいく