うお座
ウッヒャー!
吹き出しながら朗読するカフカ
今週のうお座は、コメディとしての『変身』のごとし。あるいは、不条理ギャグとしてのこの世の出来事の絶妙な笑いどころを追求していこうとするような星回り。
カフカの『変身』と言えば、ごく普通の青年グレゴールがある朝起きると毒虫に変わっていたところから始まる話としてあまりにも有名。どうして虫になってしまったのか、虫は何かの象徴なのかといったことは全然説明されず、主人公が虫であること以外はすべてがリアルに進行する。同居する家族の状況もあいまって、読者はパラレルワールドへ連れ出されたような奇妙な不安を感じさせられます。
ただし、一般的な暗く切迫したイメージに反し、じつはこの小説の本当に大事なポイントは「とにかく笑える」というところにあるように思います。例えば、グレゴールは自分が虫になってしまったことにはさほど驚かない一方で、目覚まし時計を見て出勤時間を寝過ごしたことにはもの凄く驚くのですが、そんな場面をカフカはこんな風に書いています。
それから時計に目をやった。戸棚の上でチクタク音を立てている。「ウッヒャー!」と彼はたまげた
実際、カフカ本人はこの作品を友人らの前で朗読する際、絶えず笑いを漏らし、時には吹き出しながら読んでいたのだそう。と同時に、虫以前と虫以後の時間の流れ方が全然違っていて、仕事や時間に追い立てられていた主人公が、虫になった途端に時間の流れがどんどんゆっくりになっていることにも気づかされます。
23日にうお座から数えて「俯瞰」を意味する11番目のやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、どれだけ自分という時間の流れを客体視しつつ、人間のちっぽけさを笑う目をどれだけ持てるかが問われていくことになりそうです。
茶の味
岡倉天心は『茶の本』において、茶道の本質を「人生という度し難いものの中に、何か可能なものを成就しようとするやさしい試み」にあると喝破したことで有名ですが、また別の個所では人生の面白味は<茶気>という言葉で言い表されるのだとも述べています。
俗に「あの男は茶気がない」という。もし人が、わが身の上におこるまじめながらの滑稽を知らないならば。また浮世の悲劇にとんじゃくもなく(まったく気にせず)、浮かれ気分で騒ぐ半可通(はんかつう)を「あまり茶気があり過ぎる」と言って非難する
これはそのまま、<夢と現>のあわいにおいてこの世や人生を捉えていくうお的な世界観のある種の変奏とも言えます。そして茶気はあり過ぎてもなさ過ぎてもマズいのであり、ただ私たちはどうしたってそのいずれかに偏りがちですし、今のような長きにわたるコロナ禍においてはなおさらでしょう。
今週のうお座もまた、そのどちらにも偏ることなく、出来るだけ絶妙な仕方で茶の味を追求してみるといいでしょう。
うお座の今週のキーワード
無常感のさじ加減