うお座
稽古と演技、その賜物
奥に含んだしたたかさ
今週のうお座は、『毛糸編み来世も夫にかく編まん』(山口波津女)という句のごとし。あるいは、徹底して自分が演じていくべき役柄を思い定めていこうとするような星回り。
作者は昭和の俳句界の綺羅星である山口誓子の妻であり、彼女自身も誓子の妻という立場をあえて前面に出すことで自分の作風を築いていった人。
それにしても、来世もこの夫と契って毛糸のセーターやマフラーを編んであげたいなどと、堂々と言い放つような真似はなかなかできるものではないでしょう。妻が夫を詠む時というのは、どうしても世間の目によく映るような妻を演じてしまうところがあるものですが、それにしたってこの徹底ぶりは目を引くものがあります。
少し前の世代の女性俳人である杉田久女などは、「足袋つぐやノラともならず教師妻」と詠むことで妻の役割を投げうって真の自分自身を見出そうとしたという意味で対照的ではありますが、奥に含んだしたたかさという点ではどこか似ているのではないでしょうか。
妻という役柄を積極的に演じ切っていったということは、そこにそぐわぬ本音や秘密は墓場まで持っていったということでもあります。
その意味で、16日にうお座から数えて「パートナーシップ」を意味する7番目のおとめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな波津女の爪の皮を煎じていきたいところです。
「おのれを持する」ということ
「ハビトゥス」という言葉があります。これは、態度、外観、装い、様子、性質などを意味するラテン語で、端的に「習慣」と訳されることが多いのですが、もともとの意味に忠実に定義すれば「おのれを持する能力」とも言い換えられます。
そして、掲句で示された「夫への愛」など、私たちが抱く感情もまた「ハビトゥス」の一つであり、それこそが今週のうお座にとって大切なテーマとなってくるでしょう。
例えば、愛情や優しさ、義理人情といったものは、ともすれば本人の先天的な性質に由来するものと考えられがちですが、まだ愛情にもならない思いの萌芽が何度も経験されることで強化されたり、それを発揮しやすい環境や相手を得て、練習ないし反復されていくことで初めて身についていくのだと言えます。
ほんの些細な愛情や優しさを前にした時、「愛が足りない」と不満に思ったり相手を非難してしまう人もいれば、それを拾い集めて「おのれを持する」ことで満ち足りる人もいるのは、どれだけの反復と練習を積み重ねてきたかの違いなのです。
おのれを持することは決して簡単ではありません。しかし、今のうお座の人たちならばそれができるはず。未来の苦しみを減らすためにも、些細なきっかけをこそ大切にしていきましょう。
うお座の今週のキーワード
「愛が足りない」のは稽古が足りない