うお座
やんわりと〇を描く
うってつけなミクロコスモス
今週のうお座は、共異体のモデルとしての「津波石」のごとし。あるいは、方舟ないし宇宙船にせっせと乗り込んでいこうとするような星回り。
人類学者の石倉敏明は、これまで「同一性」の枠内で語られてきた物語をハイブリッドなものへと書き換え、「共同体」という概念を刷新するべく、2019年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館で「Cosmo-Eggs | 宇宙の卵」という展示を企画しました。
それはジャンルの異なる5名のアーティストの重層的な即興展示だったのですが、中でもその中核的位置づけにあったのは、美術家の下道基行が沖縄の離島で撮影してきた「津波石」の映像作品でした。
津波石とは、かつて海底にあった巨石が、大きな地震や津波の衝撃を通じて地表にもたらされたもので、過去の大災害のモニュメントになっている訳ですが、それだけでなく、渡り鳥が巣をかまえ、小さな生物が岩の上を這っていたり、人間にとって特別な埋葬場所とされていたり、聖地として信仰されているかと思えば、場所によっては石の壁面に手造りの住居をつくって住んでいる人がいたり、あるいは周辺でサトウキビを収穫する島民や、遊んでいる子供の姿があったりと、実にさまざまな景色が畳み込まれているのが特徴です。
石倉は「津波石とは異なるものの集合体、あるいは共異体という開かれた全体性のモデルを示すのにうってつけなミクロコスモス」で、「具体的な共生と共存のイメージ」と「まだ生まれていない世界像」とを同時に託すことのできるものなのだとも述べていました。
その意味で、12月8日にうお座から数えて「基盤」を意味する4番目のふたご座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした雑多なものが自然と額を寄せあえるような場に自身を近づけていくか、みずから接近していくことがテーマとなっていくでしょう。
夕方的な言葉
プレゼンやディベートなど、主にビジネス界隈を中心に「はっきりと分かりやすく」訴えたい内容を訴求していくべしという考え方が広まって久しいですが、そこではあいまいな言葉やメッセージ力のない弱い言葉がもれなく非難の的とされてきました。
例えば、だいたい、そのうち、適当、いつしか、しだいに、雰囲気、気配、塩梅、大筋、具合、加減、いろいろ、そんなところ、ひとまず、一応、まずまずetc.
松岡正剛はこうした日本語の言葉を「夕方的な言葉」と呼びました。夕闇が人びとの輪郭や景色との境界線を溶かしていくトワイライト・ゾーンのように、あいまいな領域やあいまいな動向に反応するための言葉をそう呼んで、断固として擁護したのです。
それは縁と縁、情報と情報、心と心の「つながり」というのが、必ず弱くあわく重なりあっているような場所で成立するものだから。すぐさま否定形が用意される「成功」や「勝ち組」などの強い概念や言葉ではなく、「ぼちぼち」や「まずまず」などの弱くあいまいな状態を通してネットワークの新たな展開は生じるのであり、それは「このへん」や「あのあたり」といったそれ以外の言い方では指し示せない領域で成立する訳です。
その意味で、これで行けば間違いないといったような勝ちパターンや、確実なパースペクティブがことごとく崩壊しつつあるような現代社会では、多様でケースバイケースな「夕方的な言葉」の重要性がますます増しているのではないでしょうか。
今週のうお座もまた、そうした問題解決のためのアプローチや視点の大胆な変更を試みていくことがテーマとなっていきそうです。
うお座の今週のキーワード
もっと縦横無尽につながりを作るための言葉遣い