うお座
痛手をこえて
「冬」の強調と希望的詠嘆
今週のうお座は、『ロシア映画みてきて冬のにんじん太し』(古沢太穂)という句のごとし。あるいは、苦しい時ほど身に沁みて痛感する大切なものを再発見していくような星回り。
1948年の作。自注によればこの「ロシア映画」とは、当時公開されたばかりの『シベリア物語』。ミュージカル構成の愉快な恋の物語で、ソ連が初めて作ったカラー映画の2番目の作品でした。
東京外国語学校でロシア語を学びながらも、戦後は小さな工場の経営者としてつらい労働に明け暮れていた作者の目には、当時のソ連が「戦争の痛手をこえて、どんなに大きく新しく建設が進み、人間が成長しているかを食い入るかのように」見えたのだと述べています。
おそらく、それまで味わうことのなかった満足感に恍惚としながら帰途についた作者の目に、八百屋の人参か、台所に置かれていたそれがサッと飛び込んできては、登場人物の笑顔や歌声が浮かんできたのでしょう。カラー映画を見た後ということもあって、人参の鮮やかな橙色が印象的だったに違いありませんし、寒さ厳しい季節の人参のたくましい生命力に感動して、思わず「太し」と詠まずにはいられなかったのだと思います。
同様に、16日にうお座から数えて「美学」を意味する6番目のしし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、見失ってはいけない希望を自分の身近なところで見つけていくことがテーマとなっていくでしょう。
廃墟からこんにちは
例えば、日本最古の歌集である『万葉集』というと、すごく素朴でひなびた世界がのびのびと書かれているんじゃないかと思われがちですが、実際にはそうではありません。
天皇中心の中央集権国家を建設すべく大化の改新を起こした中大兄皇子(天智天皇)が遷都した大津宮も、壮絶な内乱であった壬申の乱(672)のため、たった5年しか使われなかった。作っては棄て、作っては棄てで、残された都には敗者の怨念が残った訳です。そして、そこに登場してきたのが柿本人麻呂(645頃~710頃)で、彼はそうした怨念を慰め、鎮魂するための「文学」として、和歌の形式を確立していったのです。
したがって、人麻呂の根底にあるのは、かつてあった都市文明が壊れてしまったという「喪失」の感覚であり、掲句に限らず日本の文学の源流というのは野生や野蛮からではなくこうした深い喪失体験が元になっているんですね。
その意味で今週のうお座もまた、単に無批判に「〇〇ってこんなにすごいんですよ」などと快楽的なだけの物語を提示するのではなく、不快でネガティブな物語も飲み込んだ上で、自身の物語を紡ぎだしていくことが求められつつあるのだと言えます。
うお座の今週のキーワード
鎮魂から始めよう