うお座
苦しみと戯れる
不思議に明るいということ
今週のうお座は、『蜘蛛の糸の顔にかからぬ日とてなし』(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、心のビタミン剤をみずからに投与していこうとするような星回り。
おそらく、作者の自宅の庭か玄関など毎日通るところに、蜘蛛がやはり同じように巣をつくっているのでしょう。
べつに顔に蜘蛛の糸がかかったところでがいがある訳ではありませんが、場合によっては、毎回同じミスを繰り返している暗くなってしまいそうなところ。しかし、そこでむしろ「日とてなし」と強調し、開き直ってしまうことで、やりきれなさとあきらめを通り越して、不思議に明るいユーモアが差し込んできているよう感じられます。
掲句を読んだとき作者はじつに80歳。私たちが日々直面し、受け止めていかなければならない事実はときに残酷で、意地悪くこちらを突き放してきますが、それでも作者は乾いた現実を歌にのせて詠みあげることで、自身に元気と明るさをもたらそうとしているのかも知れません。
それで死んだりケガを負うわけではないけれど、日々積み重なっていくと心にダメージが及んでしまうことというのは、今の世の中では思った以上に多いですが、その点、6月29日にうお座から数えて「ユーモア」を意味する5番目のかに座で新月を迎えていく今週のあなたならば、やわらかく応じて逆に糧にしていくことだってできるはず。
なめらかであるよりも
ほんとうに生きている、という感じをもつためには、生の流れはあまりになめらかであるよりはそこに多少の抵抗感が必要であった。したがって、生きるのに努力を要する時間、生きるのが苦しい時間のほうがかえって生存充実感を強めることが少なくない
ハンセン病患者との出逢いから親の反対を押しきって精神科医となった神谷恵美子は、1966年に刊行された『生きがいについて』の中でかつてそう書いていました。彼女は病いに苦しむ人の傍らでどうしたら人は生きる希望を見出しうるか、「生きがい」を持てるのかを洞察し続ける中、何かを求めて苦労する行為こそが生きがいをもたらしてくれるのだと看破したのです。
それを踏まえて改めて掲句を眺めてみると、毎度かかってしまう「蜘蛛の糸」というのは、何度も懲りずに繰り返してしまうあやまちだったり、ちょっとした思い癖だったりと、自身の傷つきやすさへの辟易する思いのようなものの比喩表現なのではないかと思えてきます。
しかし、そうした自分が自分である限り引き起こされる苦しみもまた、「生きがい」をもって生きていくためには必要なものなのでしょう。
その意味で今週のうお座もまた、なんとなく引き寄せられてしまう苦しみやあやまちと、改めて向かい合っていきたいところ。
うお座の今週のキーワード
金継ぎの美