うお座
情をやしなう
「春の空」くらい
今週のうお座は、「トランポリン春の空へと子を抛る」(隅田享子)という句のごとし。あるいは、手持ちの信頼をあらためて温めていこうとするような星回り。
「子を抛(ほお)る/放る」とは、一見するとずいぶん乱暴な言葉ですが、それもその先がふんわりと受け止めてくれるだろう「春の空」だからこその選択。
宝物のように大切な我が子を「抛る」わけですから、これ以上ないというくらい絶大な信頼を寄せている証しでもあります。それくらい、作者は「春の空」のことを頭で把握する知識や情報以上に、本能によってよくつかんでいたのでしょう。
ひるがえって、今のあなたには、作者にとっての「春の空」くらい、本能的に安心や安全を感じている存在が身近にありますか?
ここのところ、何かと私たちを疑心暗鬼に陥らせるような状況が続いていますから、この作者さながら「春の空」という誰でも知っている対象に、あえて踏み込んだマイナス表現を使うという芸当はなかなか難しいかも知れません。しかし、それでも不可能な話ではないはず。
3月21日にうお座から数えて「深い実感」を意味する2番目の星座で春分(太陽のおひつじ座入り)を迎えていくあなたもまた、あらためて安心や安全を本能的に感じ取っては、それを深めていくことから始めてみるべし。
数寄(すき)
中世日本における「隠遁」は、現代における「探検」と同じ文脈でとらえることも可能なように思います。そして隠遁の重要な要素である「数寄」とは、例えば「ひとり調べ、ひとり詠じて、みずから情を養うばかり」(鴨長明『方丈記』)といったスタイルの中で、この世界とのより直接的で本能的なかかわりを取り戻していこう、というもの。
逆にその正反対が、以下のような状態です。
世にしたがへば、心、外の塵に奪はれて惑ひやすく、人に交われば、言葉よその聞きにしたがひて、さながら心にあらず。人に戯れ、物に争ひ、一度は恨み、一度は喜ぶ。そのこと定まれることなし。分別みだりに起こりて、得失やむ時なし。惑ひの上に酔へり。酔の中に夢をなす。(吉田兼好『徒然草』)
「よその聞き」は他人がどう思うか、「分別」というのは、ああだろうか、こうだろうか、という思い悩みで、「得失」とは損得勘定のこと。忙しさに酔っているだけで、我を忘れてしまっているのだ、という最後の箇所は痛烈ですね。
今週のうお座もまた、まなざし方次第で日常の風景もまたガラリと変わっていくのだということを念頭に、身近なところこそまなざしのデザインを施してみるといいでしょう。
うお座の今週のキーワード
風景の半分はまなざしで出来ている