うお座
気付いたらデクノボー
恐るべき「ばか正直」力
今週のうお座は、『白痴』の主人公ムイシュキン公爵のごとし。あるいは、何ら損得勘定の働いていない阿呆なことを言っていくような星回り。
文芸評論家のミハイル・バフチンは、ドフトエフスキーの長編小説の基本的特徴は「ポリフォニー」、すなわち「自立しており融合していない複数の声や意識、すなわち十全の価値を持った声たちによる対話的交通」にあるのだと言いますが、その典型例として挙げられていたのが『白痴』のムイシュキンという人物でした。
この小説でムイシュキンは過剰なまでに「ばか正直」な人物として造形されている一方で、心に染み入る言葉、つまり「他者の内的対話のなかに自信をもって能動的に介入し、その他者が自分自身の声に気付くのを手伝えるような言葉の持ち主」なのだと言います。
分かりやすく言えば、この人は宮沢賢治のいう「デクノボー」なのであり、人のじゃまをするのが大嫌いで、またほめられようとすることもありません。つまり、小賢しい思惑がない分だけ、他人の本質をすっきりと見通す力を持っており、ぼんやりしているようで、ぐいっと相手の心をつかむコメント力の持っている、ということなのでしょう。
9月23日にうお座から数えて「巻き込まれ事故(自己)」を意味する8番目のてんびん座へ太陽が移る秋分を迎えていく今週のあなたもまた、そんなムイシュキン公爵に図らずとも近づいていくようなところがあるかも知れません。
ナスターシャに寄り添うの巻
たとえば、ナスターシャという、異様に男心をくすぐり、虫のように男たちを寄せ集めてしまう強力かつ無私な女王様のような女性に対して、ムイシュキンは心の奥底から責める調子で次のように言い放ちます。
いや、あなたもまた恥ずかしくないんですか!前からそんな方だったんですか。いいえ、そんなはずがありません!
辛さを抱え込んで意地になっている女性に対して、こうした物言いはおそるべき力を発揮します。それまで傲慢な態度で男たちを揺さぶり、嘲笑し続けていたナスターシャは、先の発言をうけると、なんと素直に「あたくしは、ほんとうはこんな女ではございません、あの人のおっしゃったとおりですわ」と顔を赤らめたのです。
もちろん、ムイシュキンはそこまで計算して言ったわけではなく、ただ無駄な自意識から免れていたがゆえに、自然と他人の苦悩に寄り添うことができたのだと思います。
そして今週のうお座であれば、デクノボーに徹していくことで、彼のようにかえってふつうの人が気付かないようなところに気付いたり、それを分かった上での振る舞いをしていくことができるようになるはず。
うお座の今週のキーワード
自分を勘定に入れない