うお座
闇との戯れ
ライク・ア・まっくろくろすけ
今週のうお座は、「灯をともす指の間の春の闇」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、「腑に落ちる」まで何度も感じ直していくような星回り。
作者最晩年の85歳頃の作。死の一カ月ほど前から、作者は春の闇について繰り返し詠っており、同時作には「テーブルの下椅子の下春の闇」などがあります。
掲句の「灯をともす指のあいだ」も、「テーブルの下」「椅子の下」も、ふつうの感覚では、そして他の文芸であってもなかなか拾わないような、ごく些細で周辺的な場所ですが、そこを丹念に拾い上げ続けていることに気が付いてくるはず。
「春の闇」という、どこかぼんやりとして形なきものを、まっくろくろすけのようなある種の塊りとして詠んだ作者は、恐らく自分の死期が近いことを感じとっていたのでしょう。
あんなところにも、こんなところにも、とつい目で追い、肌で感じた死の影をできるだけ大仰な心理をはさまずに独り句の推敲を重ね、遅き日を過ごしていただろう老人の後ろ姿に、俳人としての生き様を貫き通す虚子の凄味を感じざるを得ません。
20日に太陽がうお座から数えて「肌感」を意味する2番目のおひつじ座に移動し、春分を迎えていく今週のあなたもまた、何度も頭をよぎった予感や不安をしっかりとおのれの臓腑に落としていくことがテーマとなっていくでしょう。
ニュクスの子供たち
ユダヤの伝承に出てくる女性の悪霊リリスは、ギリシャ神話では夜の女神ニュクスと呼ばれていました。彼女は「従者をひきつれて、夜の最も闇の濃い時間にうろつき回」り、夜通しぐっすり眠っていられる子どもや若者のうちは遭遇しないものの、次第に老いとともに対面を余儀なくされていく訳です。
そしてこの女神にはたくさんの子供たちがおり、死の運命(モロス)、皮肉(モモス)、復讐(ネメシス)、怒り(エリニュス)、悲嘆(オイジス)、色欲(クプリス)という名でそれぞれが昼間は私たちの中でなりを潜めている心理学上の概念を象徴しており、これらは逆に夜の闇の中でそっとこちらに働きかけてくるのです。
彼らは夜中にいったん目を覚ました者を、再び安らかには眠らせてくれないでしょう。そうして不安を抱えた心は、さまざまな思いに苛まれますが、今週のうお座が留意すべきは、そんな風にして眠れないままベッドに横たわる時間の中でしか育たない類の気付きがあるのだということ。
きっとニュクスは、私たちに自分たちのことをもっとよく知ってもらおうとしているのでしょう。今週は、あなたの中に眠っていた夜の化身がいつも以上にうごめき騒いでいくはず。その際虚子のように、できるだけ淡々と相対してみるといいでしょう。
今週のキーワード
夢よりも鮮やかな感情を!