うお座
境界線を行ったり来たり
季語をズラして遊んでみた
今週のうお座は、「遊船の冬暖かきパリの旅」(コンラッド・メイリ)という句のごとし。あるいは、心に“気配”や“風”を通していくような星回り。
作者はスイス人の画家であり、1939年に招かれて当初は3ヶ月の予定で来日したものの、太平洋戦争の進行で帰れなくなり、1949年に帰国するまで絵だけでなく、俳句を知って親しむようになり、亡くなる直前まで俳誌への投稿を日本語で続けたそうです。
掲句は、帰国後にスイスとフランスに半々くらいいたメイリが、夫人の山田菊を連れてのパリの旅を詠んだものでしょう。スイスは山深い雪国ですから、冬のパリの暖かさがなおのこと旅する者の気分を高揚させているのが感じられるのではないでしょうか。
エッフェル塔、ノートルダム大聖堂、凱旋門、ルーブル美術館、セーヌ川。そうしたパリの情景を思い浮かべてみると、日本の「遊船」という季語との取り合わせがもはや、日本の季節感にはないものであることに改めて気が付いてきます。
湿度の高い日本では、「遊船」や「舟遊び」と言えば納涼のための舟を出すことで、もっぱら夏の季語であり、ちょうど詠まれた季節が正反対なのです。ただし、弾む胸の内やそこに吹き込む爽やかで楽し気な“風”のようなものは、不思議と共通しているように感じられるはず。
21日にうお座から数えて「遊びと移動」を意味する3番目のおうし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、すっかり凝り固まってしまった感受性をズラして遊ばせ、いきいきとした気分を取り戻していきたいところです。
何かが起こりそうな気配
現代社会に暮らす私たちは、同じようなことばかり起こる日常の連続をごくごく平凡なことだとか、退屈で価値のないことと思いすぎる傾向があります。そのため、何か劇的な変化を求めてついつい変わったことをしたがったり、有名になろうとしてみたり、旅行へ出かけたり、出会いを求めたり、引っ越したり、もっとお手軽に酔っ払らったりしている。
けれど、何かが起こりそうな気配の発生してくる震源地というのは、非日常ではなく、先の季語のように、やはり日常の中に在るものです。例えば、
あの三流の付き人を演じているのは、一流の役者かも知れない
といった、「ひょっとしたら」の感覚。それが幾度か重なり、「まさか」の渦となって高揚し始めてきたとき、現実はあっけなくひっくり返り、スッとかすかな消息を残してどこかへ消えてしまったりする。結局、そういう消息をつかまえようとする時にこそ、自然と私たちの感受性は豊かに弾んでいくのではないでしょうか。
今週のキーワード
消息をつかまえる