うお座
夢を引き継ぐ
末期の夢
今週のうお座は、「夜、絶望、そして宝石」と鳥がうたうマラルメの詩の一節のごとし。あるいは、無限の海域をたゆたう難破船のように流れに身を任せていくような星回り。
19世紀フランスを代表する象徴詩人マラルメは、ヴァスコ・ダ・ガマの喜望峰回航400年周年に詩を寄せている。ヴァスコ船長がインド航路を開拓したのは1498年、つまりその400年後の1898年に詩を書いた訳ですが、それはマラルメの最後の詩でもあり、毎度のことながらじつに不思議な余韻をのこすものでした。
詩のなかのヴァスコ船長は、「時間の岬」としての喜望峰を越えて、さらに到達したインドも後にして、さらに無限の海原の先へと突き進んでいくと言います。それは、世紀の変わり目を反映したものだったのか。あるいは、個人的な夢想だったのか。
「それはあたかも、新しい報せをもたらす一羽の小鳥」のように「変わらぬ舵」へ向かって「夜、絶望、そして宝石」と「ただそればかりを単調に叫び続けた」のだという。そして、「その小鳥のうたは、顔面蒼白のヴァスコの微笑にまで反映されていた」のだと結びます。
しかしマラルメがそう書いてから100年以上が経過した現代においては、すでに宇宙へ、宇宙の外へ、生命体の内部へ、遺伝子のそのまた内部へと「航海」は続けられてきました。
9月22日のうお座から「継承」を意味する8番目のてんびん座へと太陽が移っていく今週のあなたもまた、ヴァスコ船長の末期の夢に自分を重ねてみるのも悪くないでしょう。
自分を変えるための家出
これが典型的な家出であれば、かっとなった衝動に任せて着の身着のまま飛び出していくというものになるのでしょうけれど、大体最終的には「家に帰りたい」となんだか泣けてきて、親や家族が迎えにくるものと相場が決まっています。
そこでは「冒険」はいつかは醒める夢のように、あるいは、聞き分けのない子供のように無力なものとして扱われる訳ですが、今週のうお座が必要とするのはそうした見切り発車的なものとは一線を画した、なにかしら秘密を胸に抱いてそっと夜中に家を抜け出していくような決意に基づく冒険なのではないでしょうか。
やめたいのにやめられない。そんなある種の「病い」のようなものとしての航海であり、旅への衝動は、ときどき自分の中でどうしようもなく抑えられなくなるのです。
そんな時、ひとは本を読んだり、詩を書いたり、誰かと逢おうとするのかも知れませんし、それは自分をこれまでと違ったものにしていくような覚悟を秘めた決死行となっていくでしょう。
今週のキーワード
「夜、絶望、そして宝石」