うお座
新しい人生の幕開けの予感
花のエロスはやってくる
今週のうお座は、メーヴェに乗るナウシカのごとし。あるいは、いま乗っていくべき「風」を全身で感じていくような星回り。
いつしか必要以上に若く丸ぽちゃのいたずら小僧に成り下がってしまった愛神エロスは、アルカイック期の壺絵などにおいては、ただ翼のはえた青年神として描かれていました。
例えば、紀元前6世紀にテオグニスの歌には次のようにあります。
「エロスは彼の時にあわせて来る
誕生の地なる美しいキュプロスの島を去って。
エロスは来る、地上の人間のために
種子をまきちらしながら。」
この「彼の時」とは春のこと。実際、壺絵のエロスは花の枝を手にしてかろやかに水の上を翔んでいる。
こうした花のエロス、命への尽きせぬ衝動としてのエロスは、どこかメーヴェに乗って空を翔けるナウシカの姿とも通底しているように思います。
というのも、こうした古い神話表象の名残りを留めている2世紀の『変容(黄金のろば)』において、はじめにプシュケ(古代ギリシャ語で「蝶」ないし「魂」の意)が西風(春風)に連れてこられた場所は、花咲きにおう谷間の草原だったのです。
ドイツ語で「かもめ」を意味するメーヴェについて、劇中でナウシカは「ガンシップは風を切り裂くけど、メーヴェは風にのるのだもの」と述べています。
これもいかにも、生きとし生けるものの宿命的な生の衝動としてのエロスを一身に担ったナウシカらしいセリフではないでしょうか。
今週のあなたもまた、それとなく心をかき乱す春風がやってきたら、恐れることなくそこに身をあずけていきましょう。
言の葉は風に舞う
そもそもの話、風は「吹く」ということが本質であり、古代ギリシャでは吹いているものをプネウマと呼び、それはキリスト教において「霊」となっていきました。
当然プネウマは自然のなかの風だけでなく人体を吹く呼吸でもあって、インプットされる風とアウトプットされる風とがある訳です。
アウトプットされる風は息となり、音声や言葉になっていきますが、例えばインドでは有名な「オーム」というマントラ(聖音)があります。
これは呼吸する風の始まりを、大きく口をあけた「ア」とみなし、風を結ぶ方は口をしっかり閉じた「ン」とみなし、その途中に「ア」から「ン」までのすべての音のバイブレーションをイメージしつつ、できるかぎり長く息を吐いて持続発声させていく。
そしてそれは、植物が黒い種子から柔らかい芽を出し、緑の葉を茂らせ、色とりどりの花を咲かせ、ふたたび褐色の土地へと戻っていく過程で、自然界の全色を通過していくのに似ています。
そういう意味では、同じ音を持つ『ナウシカ』におけるオーム(王蟲)が、汚染された大気の浄化システムである腐海を守るべく作られた存在であるという設定も、あながち偶然はないのかもしれませんね。
新たな風が身体を吹きぬけていくということは、新たな宇宙の創造されることへと通じるのです。どうかそれくらいのつもりで言葉や呼吸を意識してみてはいかがでしょう。
今週のキーワード
風をつかまえ声を響かせる