
てんびん座
切望を橋に変える
不思議な同調を
今週のてんびん座は、「彼一語我一語秋深みかも」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、会話の余白としての沈黙をきちんと耕していこうとするような星回り。
季語は「秋深し」。最後の「かも」は「~だなあ」という詠嘆の古語。彼がひとこと何かぽつりと言い、私もぽつりと何かを言った。あとはまた二人とも無言でたたずんでいる。秋の気配がいっそう深まってきたなあという、しみじみとした静かな情景を描いた一句です。
二人の関係がただの知り合いなのか、旅行中の友人同士なのか、はたまた夫婦やパートナーなのかは分かりませんが、二人の会話の余白はどこか豊かな沈黙によって満ち足りており、深まりゆく季節の気配がそのまま二人が育んできた関係性の熟成を物語っているようでもあります。
どんな関係であったとしても、おそらく共通しているのは、放たれた言葉が「会話の終わり」ではなく、「余韻の始まり」であろうということ。「彼一語我一語」という対話は、じつは二人のあいだに沈黙を生み出すための呪文のようでもあり、そうしてよく耕された沈黙のなかでこそ、季節と心、心と心とが不思議と同調していくのです。
その意味で、相手が何か言った後、あれこれと言葉を継がずに、いったん黙ることができるかどうかが、関係性を熟成発酵させていく上での秘訣なのだとも言えるかもしれません。
10月30日にてんびん座から数えて「愛情表現」を意味する6番目のみずがめ座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、「余韻の始まり」に意識を置いて過ごせる時間をできるだけ楽しんでみるといいでしょう。
沈黙は切望を育てる
ここで思い出されるのが、戦前に刊行された保田与重郎の『日本の橋』です。そこでは、西欧の橋の特徴を比較しつつ、日本特有の美学について論じられているのですが、いわく、西欧の橋が頑丈な石造りなのは、そこを征服者が大勢の軍隊とともに移動するための便宜であるのに対して、日本の橋は木の橋や吊り橋で、弱くて哀れな造りになっているのだと。
これは村人や旅人が川を渡るために造ったという程度のもので、両者はたんに素材が違うだけではなくて、橋というものの目的意識そのものが異なっており、日本の橋はその弱弱しさにこそ特徴があるのだと言うのです。
例えば、名古屋の精進川に架かる橋に彫られた銘文を引き、豊臣秀吉に従って出陣し戦没した息子の供養のため、母親が「かなしさのあまりに」橋を架けたという由来を引いて、そこでは橋が心と心との哀しい架け橋としての役割を果たしているのだと。
今週のてんびん座もまた、やがて朽ち果てるはかなさを湛えた自然の道の延長として、みずからを誰か何かへ架かる橋へと変えていきたいところです。
今週のキーワード
深い谷をはさんだ場所にこそ橋は架かる







