
てんびん座
ひょいと、すっぽり

明るみから暗がりへ
今週のてんびん座は、「燈(ひ)を消して蛙聴くべしうきうきす」(石塚友二)という句のごとし。あるいは、オンとオフの切り替えをはっきりつけて思いきり羽目を外していこうとするような星回り。
「蛙」は一般的には春の季語ですが、梅雨から夏にかけて鳴き声が活発になることから夏の季語として使われることもあり、掲句はその好例と言えるでしょう。
この句の肝は前半の文語調から後半の口語調への突然の転換から生まれる緊張と緩和、そして「聴くべし」という強い断定を受けての「うきうきす」という表現にあり、まるで少年少女にかえったような等身大の心のはずみが見えるはず。
そもそも、現代社会は明るすぎます。SNSを通じていつなん時、過去の何気ない発言やプライベートな行動が掘り起こされ、それが本来の意図とは無関係に晒され、でたらめに結びつけられ、予期しない形で火種にされてしまう分からない世の中にあっては、私たちは「うきうき」するどころか、他人の視線を気にせずにいられる機会すら失いがちになってしまっているのではないでしょうか。
その意味で、「燈(ひ)を消す」とは、現代においてはスマホの電源をオフにするとか、ネット環境から離れる、誰にも告げずに世間から隠れる、正しくなくても許されるような場所で遊ぶといったことにも置き換えられるかもしれません。
5月13日にてんびん座から数えて「等身大の身体性」を意味する2番目のさそり座で満月(解放)を迎えていく今週のあなたもまた、ひょいと「暗がり」に入りこんで、身も心も思いきりはずませていきたいところです。
すっぽり入る穴を掘る
谷川俊太郎が幼稚園児ぐらいの子供向けに書いた『あな』という絵本は、「にちようびのあさ、なにもすることがなかったので、あなをほりはじめた」という一行から始まります。話自体は、ある子どもが穴を掘って、なんとなく途中で掘りやめて、穴の中でボサーっとして、最後に穴を埋めちゃうっていう、それだけの話です。
もしかしたら、もう少し大きくなったら話の筋は変わるかもしれないし、それこそ何人か同じことをし始めれば、それぞれごとに異なる話になっていくでしょう。けれど、「何もすることがないので穴を掘ることにした」という書き出しは、いつの時代の誰であっても、こうでなければいけないと感じさせるほど普遍的に感じられます。
「穴があったら入りたい」とも言いますが、人間、生きていれば、どこかに身を隠してしまいたいという気持ちに突き動かされる時期がある。それはまず10代の思春期から20代前半くらいまでの頃がそうですし、そこで飛び出していって無茶をしたり遍歴したりできなかった人などは、次に40代に入る前後、中年期に差し掛かる手前あたりでふっと穴を掘りたくなる。
それは物理的な穴であっても、抽象的な“ここではないどこか”であってもいいんですが、それで不倫に狂ってしまう人もいれば、骨董品にこり始めたり、バイクの免許をとって日本を一周しに行ってしまったりする。そういうのは説明できない心情で、とにかく絶対にそうしたい、と思うようになるのが特徴です。
その意味で、今週のてんびん座もまた、自分の身がすっぽり入るくらいの穴を掘りだして、そこ身を潜めてみるといいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
「何もすることがないので穴を掘ることにした」





