てんびん座
吸い寄せられるように
自己解放の道
今週のてんびん座は、クロ―ディア式の家出のごとし。あるいは、自分の中の危険を嫌う性質と、知りたいという強い欲求とを、喧嘩させることなく両立させていこうとするような星回り。
E・L・カニグズバーグによる児童文学作品の傑作『クローディアの秘密』の主人公クローディアは、アメリカに住むごく普通の12歳の女の子であり、下に弟がいて、長女だからといって色々と無理を押し付けられることに不満を抱いていました。彼女は「不公平な待遇にも、まいにち同じことのくりかえしにも、すべてあきあきした」ことから、家出を計画します。ただし、彼女はいわゆる児童文学ではお決まりの「冒険的」な家出はしません。
むかし式の家出なんか、あたしはぜったいにできっこないわ、とクローディアは思っていました。かっとなったあまりに、リュック一つしょってとびだすことです。クローディアは不愉快なことがすきでありません。(…)そこでクローディアは、あたしの家出は、ただあるところから逃げ出すのではなく、あるところに逃げ込むのにするわ、ときめました。どこか大きな場所、気持ちのよい場所、屋内、その上できれば美しい場所
そうして彼女はニューヨークのメトロポリタン美術館へと家出するため、同伴者として一番お金を貯めている弟を選んでその気にさせ、「いろいろなものをなしですませる練習」までして、実行します。ただし、彼女の家出はメトロポリタン美術館でミケランジェロ作とされる天使の像の謎と出会ったことで急展開を迎えます。
ミケランジェロがしたかどうか、知りたいのよ。なぜだか、じぶんでもわからないの。ただ、どうしても知らなくなっちゃって感じなの。たしかなことを。どんな方法でもいいのよ。ほんとのことを発見すれば、あたしは救われるの。
天使の像との出会いは、彼女の家出の目的を像の秘密を知ることを通して「ちがったあたしになって帰りたい」というものに変えていったのです。
10月17日にてんびん座から「出会い」を意味する7番目のおひつじ座で十三夜の満月(解放)を迎えていく今週のあなたもまた、誰も知らないような秘密をあえて知ろうとすることの中に、決して危険ではないけれど、自分をこれまでとは違ったものにしてくれる活路を見出していくことになるかも知れません。
「玉ねぎ地下酒場」
ギュンター・グラスの長編小説『ブリキの太鼓』では、戦中から敗戦後にかけてのドイツ社会解体の混乱が、緻密かつぶざまに、ときにグロテスクなユーモアをまじえて描写されているのですが、その中にライン河畔の市にある「玉ねぎ地下酒場」の場面があります。
酒場ならばビールやワインが飲めるばかりでなく、ちょっとした料理が食べられるものですが、ここではそういうものは一切出ません。客のまえには、まな板と包丁が並べられ、そこに生の玉ねぎが配られるのみ。つまり、このまな板の上で各自めいめいが玉ねぎの皮をむき、好きなように切り刻んで、それをご馳走にしろという、なんとも人を食ったシステムなのです。
ただ、こうしたバカバカしいことをするために、わざわざ料金を払ってやってくる客がいるのも事実です。それは一体どういうことかと言うと、玉ねぎを切れば客の目には涙が流れる訳ですが、それがミソになっていると。
その汁がなにを果たしてくれたのか?それは、この世界と世界の悲しみが果たさなかったことを果たした。すなわち、人間のつぶらな涙を誘い出したのだ。
今週のてんびん座もまた、こうした「誘い出してくれるもの」の力を借りて、自分ひとりだけでは決して出来ないことにこそ取り組んでいきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
ひとりでは失態は犯せない