てんびん座
悪と誠実
美しい怒りを
今週のてんびん座は、『握りつぶすならその蝉殻を下さい』(大木あまり)という句のごとし。あるいは、自分なりの美学に対してひたすら誠実であろうとしていくような星回り。
この句の主人公が向き合っているのは、セミの抜け殻を粗末にしている人ですが、それは具体的な誰か何かというよりも、抽象的な「悪」そのものと言っていいかも知れません。
主人公は大いに怒っており、しかも、その怒りを物騒であるとか大人げないといった調子で自分の内に押し込めるのでなく、実際に声をあげています。
では、ここで主人公が真っ向から怒りをぶつけている悪とは何か。
それは蝉の抜け殻という、自然が生み出したうつくしい繊細なものを、簡単に台無しにしてしまうような類いの何かである。しかも、「握りつぶす」というのは明らかに確かな意思が介在しており、「うっかり」していた結果の過失などではありません。
何らかの目的をもって、ないし、手段をあやまって選択して悪をなすものには、掲句のように公然と、しずかに、抗議の言葉をぶつけていく。それが「誠実さ」というものなのではないでしょうか。
8月13日にてんびん座から数えて「実存」を意味する2番目のさそり座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、言葉を荒げるのではなく、むしろ美しく言葉を使うことで自分にとって身近な「悪」と向き合っていくべし。
多くの人との共通言語としての「メディア」
作家の村上春樹は、コロナ禍の真っ只中であった2020年7月10日に毎日新聞で配信されたインタビューの中で、次のような危惧について口にしていました。
特にこういう一種の危機的状況にある場合には、例えば関東大震災の時の朝鮮人虐殺のように、人々が変な方向に動いていく可能性があるわけです。そういうのを落ち着かせていくというのはメディアの責任だと僕は思うし。
これは例えば不正や疑惑の祭典と化したパリ五輪で揺れている現在の社会にも通底するのではないでしょうか。そして、いつの時代も世間にはびこっている構造的な差別や、世代から世代へと連綿と受け継がれていく負の連鎖というのは、あるきっかけを得ればすぐに狂暴化するものです。
私たちはいつだってそういう世界の文脈の中にいるのであって、そうしたいつ起きるとも知れない狂暴化を抑制するのは、村上春樹が警告するように「メディアの責任」であると同時に、読者たる市井のひとりひとりの人間が、自分の内側だったり身近なところにある攻撃性や無感覚とどれだけ向き合っていけるかにかかっているのだと言えます。
その意味で、今週のてんびん座もまた、改めてみずからの日常の中にある暗い側面をいかに自覚し、それを具体的な言葉につなげていけるかが問われていくでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
善の欠如としての悪をみずからの内に見出すこと(⇔その対極としての傲慢さ)