てんびん座
生きている地層を掘り下げる
仮想現実を展開させる
今週のてんびん座は、江戸庶民にとってのナマズ絵のごとし。あるいは、ゆるぎないはずのこの世を、想像力によって徹底的に宙に浮かせていこうとするような星回り。
日本には昔から大鯰が地下で活動することによって地震が発生するという民間信仰がありますが、実際に1855年の安政の大地震(死者数千人、倒壊した家屋は一万数千軒と言われる)の後には、ナマズを題材に描かれた浮世絵が大量に出版されて飛ぶように売れ、その種類だけでも軽く100を越えたという記録が残っています。
オランダの文化人類学者アウエハントの『鯰絵ー民俗的想像力の世界ー』によれば、日本社会ではそうした天変地異を神話的な構造へと定着させることで、例えば倒幕運動などの集団的なムーブメントをつくりだす原動力をつくりだすために利用してきたのです。
江戸の庶民たちは地震をただ非日常的な大災害として見ているだけではなく、人間と自然を対等にとらえ、「ナマズの行為」という概念を仲立ちさせることで、自分たちの身に起こった出来事の複合的な意味合いを結びつけ統合させようとしていった訳です。
そして、自分をおさえつけていた要石をどうにか外すことに成功し、からだを一ゆすりさせることで、大地の安定性どころか経済の均衡さえも崩してしまう張本人の姿を描いた鯰絵に、古い秩序の破壊者にして世直しをもたらす創造者としての「トリックスター」元型を見出していたのだ、と。
こうした神話的思考を通して、揺れ動く“浮き世”は、文字通り「仮想現実(バーチャルリアリティ)」として江戸庶民に了解され、彼らはそこからそれぞれの未来を生き抜いていく力を得ていったのではないでしょうか。
7月21日にてんびん座から数えて「生存基盤」を意味する4番目のやぎ座で満月を形成していく今週のあなたもまた、自分に生き延びていく力を与えてくれるような「ナマズ」に代わる新たな神話的イメージを取りこんでいきたいところです。
夢の場所へ
今週のてんびん座の人たちに必要なのは、「あえて2歩下がる勇気」とも言えるかも知れません。1歩といわず2歩も後退するのはなかなか勇気がいることですが、それはさっさと前を向いて歩いていくことよりも今のあなたにとってずっと価値があるはず。
というのも、てんびん座の人に最も欠けているにも関わらず、この世を生き抜いていくために必要となってくるのが、手で触れられるくらい「リアルな夢」だからです。
それもこの場合、実現可能な夢かどうかというよりも、その夢がどれだけ深いものであるかが大切で、ちょうどあなたという人生の内部にありながら、いまだ溶け込みきれず輪の外で佇んでいる幼い頃の自分として、“それ(夢)”は存在しているのでなければなりません。
色や形もぼやけた、曖昧で空虚で、ビルの合間にふいに現れる空き地のような夢の場所へ、ほんのちょっとだけ戻って、そこでまどろむ。
自分は何のために生きているのか、とかそういう難しいことは考えなくていいんです。ただ、その場所のおかげで今の自分が存在できているという「安心感」を取り戻していくこと。まずはそれだけを頭に置いて、後のことはすべて忘れてください。
てんびん座の今週のキーワード
There is a dream dreaming us.(ここには私たちを夢見ている夢がある)