てんびん座
探し物は何ですか
しらじらと明けてゆくに
今週のてんびん座は、『短夜の明けゆく水の匂ひかな』(久保田万太郎)という句のごとし。あるいは、意識の底に沈んでいた原体験が再浮上してくるような星回り。
日本では伝統的に、春の夜明けを「春暁」といってその美しさを讃えてきましたが、6月の夜明けもなかなかどうして格別です。1年のうち夜がもっとも短いのは夏至で、6月はそこに向かってどんどん夜明けが早まっていく。それがまさに「気付くと朝になっている」という感じで、朝の4時頃にはもう明るい。
カーテンの隙間から夜明けのうすあかりがさしこんでくると、次第に明るさが増していき、そのタイミングで外に出るとひんやりと冷たいのも気持ちがいい。
作者は隅田川のほとりの浅草に育った人でしたから、川の流れがしらじらと明けてゆくにしたがって、水の匂いがただよってくるというのが、ある種の原体験として記憶に深く刻み込まれていたのかも知れません。
特に、昔の人は夜明け前に働き始めるのが当たり前のようなところがありましたから、ちょっとした家事や執筆など仕事始めの合間に、ふと鼻腔をつく水の匂いを通じて、新しい朝の到来を実感していたのでしょう。
6月14日にてんびん座から数えて「無意識」を意味する12番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、いつも気付かぬうちに受け流してしまっていることを、自覚的になぞっていくべし。
玉手箱を開けてみよう
玉手箱といえば、浦島太郎が竜宮城から地上に戻る際に「絶対に開けるな」という言付けとともに受けとったあれです。
浦島太郎の場合、竜宮城では封じ込められていた“実際に重ねた年齢”が箱の中から出てきて一気に年を取ってしまいましたが、このお話は、玉手箱の中には「誰もが気付かないフリをしてきた現実」が入っていて、必ずいつか誰かの手によって開けられる運命にあったのだとも解釈できます。
それはとても怖いことですが、しかし、生命が帳尻を合わせていくためには、やはり必要不可欠なことなのです。その意味では、冒頭の句においてすっかり夜が短くなってきた(=無意識を抑えきれなくなってきた)6月の夜明けに水の匂いを嗅いだというのも、玉手箱を開けた人間のメタファーなのだと言えるかも知れません。
その意味で、今週のてんびん座もまた、普段なら思い出すことさえない昔の話だったり、なにげなく問いかけられた根本的な問いかけなどに、ふたたび巡りあっていきやすいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
玉手箱も開けられる時を待っている