てんびん座
共に語らうために
ヒロイズムを超えて
今週のてんびん座は、「恐れなき発言」をめぐる連帯や協力のごとし。あるいは、恐れを抱きつつも、大胆にも言葉を発し、誰かと共に語ったりしていこうとするような星回り。
現代フェミニズム思想を代表する思想家ジュディス・バトラーは「恐れなき発言と抵抗」と題されたセミナーにおいて、「恐れなき発言とは何か、あるいはそれはどのように機能するのか、と問うことで、私たちは、今日の抵抗の構造あるいは意味について重要な何かを見出すことができるかも知れません」と問いかけました(佐藤嘉幸訳「恐れなき発言と抵抗」、『現代思想2019年3月臨時増刊号』所収)。
まずこの「恐れなき発言」とは、「率直に話すこと」「真実を述べること」と翻訳されてきたギリシャ語の「パレーシア」という言葉が前提に置かれています。そして、ここでは語り手は、(主に権力者にとって)都合の悪い真実を語るため、つねに反撃や孤立、拘留、死などのリスクに曝されており、それゆえ「恐れなき発言」の遂行にはヒロイズム的な徳(勇気など)が必要とされてきました。
しかし、バトラーは政治的勇気にとって恐れなき語りが不可欠だとは考えて“いない”と告白します。というのも、私たちはしばしば恐れを乗り越えていないかもしれないが、「それでも語り、恐れつつ大胆であ」ったりしますし、また「語る際に、時に私たちは単に自分自身の声では語っておらず、他者たちと共に語ってい」るからでしょう。
そして、2月14日にてんびん座から数えて「表出」を意味する5番目のみずがめ座で火星と冥王星とが重なって「徹底抗戦」が強調されていく今週のあなたにおいても、自分が何に対して、いかに、また誰と協力しあって「恐れなき発言」を発しているのか、といった「抵抗の形式」は大きな焦点となってくるでしょう。
特に、恐るべき発言をするにあたり、どうしたら自己責任や個人主義を回避し、いかに連帯し、それを蓄積していけるか、という点については、自分自身が反撃や孤立、拘留、死などのリスクに潰されてしまわないためにも、しっかりと自問していきたいところです。
モンテーニュとラ・ボエシ
人間の生き方を洞察した近代フランスのモラリストの代表格であり、酸いも甘いも知りつくした人らしい、さりげない箴言が散りばめられた知恵の結晶である『エセー』の著者であるモンテーニュは、友人との付き合いについて次のような言葉を遺しています。
真の友愛においては、私は友を自分の方に引き寄せるよりも、むしろ自分を友に与える
これは若くして亡くなったモンテーニュの心の友であり、早熟の天才であったラ・ボエシとの交友を念頭においた言葉であろうと思われますが、さらに次のように続きます。
単に彼が私を益することよりも私が彼を益することの方を好むだけでなく、彼が私よりも彼自身の方を益するようにと私は願う。彼がもっぱら彼自身によくしている時こそ、彼は最も私に益しているのである
このような境地に至れる相手が、人生に果たして何人いるかと問えば、おそらく一人でも出会えたなら、その人は幸運でしょう。そして、おそらくこうした存在を前提とする時に初めて、「恐れなき発言」というものがヒロイズム的勇気や自己責任から解き放たれていくのではないでしょうか。今週のてんびん座もまた、恐れつつも勇気ある発言をしていくことのできる関係性ということについて、ひとつ思いを巡らせてみるべし。
てんびん座の今週のキーワード
彼がもっぱら彼自身によくしている時こそ、彼は最も私に益している