てんびん座
さよならだけが人生さ
雪の日の帰り道
今週のてんびん座は、『雪つぶてまた投げ合うて別れかな』(阿部慧月)という句のごとし。あるいは、忘れていた“儀式”を再び遂行していこうとするような星回り。
「雪つぶて」は雪合戦のときなどにつくる雪の玉。おそらく、掲句は作者が自身の子供時代の回想をしていく中でできた句なのでしょう。
実際、こういう句を読むと、久しく忘れていた情景がありありと思い出されてくるようです。雪が降った日の学校からの帰り道。集団下校と言えど、ひとりまたひとりと、道の分岐点などで数が減っていくと、だんだん心細さがつのってくるもの。
子供同士、まだ家が遠く道の先までひとりで帰らなくてはいけない子の寂しさをなんとなく感じ取って、いったん大人しく別れたふりをしてから、はげますつもりで油断した背中に雪つぶてを投げつけるのだ。
「してやられた」と悟った方も、思わず「なにくそ」と投げ返す。そしてそれを合図に、しばらく雪合戦が続くわけですが、しばらくして互いの息が切れてくると、どちらともなく「じゃあ、またな」と声をかけあって、“儀式”は終わるのだ。
中には、子供時代に別れたきり、二度と人生で相まみえることのない顔だってあるでしょう。それ自体は悲しいことでも、特別つらいわけでもない。ただ、大人になるとどうしても、そうした“儀式”をなんのわだかまりもなく純粋に遂行する機会がめっきり減ってしまう。それがどこか物寂しいのかも知れません。
1月11日にてんびん座から数えて「深い記憶」を意味する4番目のやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分の人生のベースとなっているストーリーを改めてなぞっていくことになるはず。
決別こそ真の連帯
花に嵐のたとえもあるさ/さよならだけが人生さ(『勧酒』/井伏鱒二訳)
これは井伏鱒二が訳した漢詩の一節ですが、例えばいきものがかりの『YELL』という曲にもそうした繋がりのあり方が印象的に描かれた箇所があります。
サヨナラは悲しい言葉じゃない
それぞれの夢へと僕らを繋ぐYELL
いつかまためぐり逢うそのときまで
忘れはしない誇りよ 友よ 空へ
これはある意味で先の“儀式”の本質を見事に表現した歌詞であり、別れを告げることこそが私たちを繋ぐという関係の可能性を提示してくれているのだと言えるでしょう。
友を敬意をもって祝福することが、そのまま自分への励ましとなり、また誇りにもなるような。今週のてんびん座もまた、そんな道をこそ選んで歩いていきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
また投げ合うて別れかな