てんびん座
口から何かがほとばしる
火が爆ぜる
今週のてんびん座は、『暖炉ぬくし何を言ひだすかもしれぬ』(桂信子)という句のごとし。あるいは、矛盾する正反対の心理や傾向性が不思議と同居していくような星回り。
暖炉の熱は冷えた体を温めるだけにとどまらず、心を熱くし、口先までも勢いづかせる。掲句はおそらく、2人きりになった部屋で、暖炉だけが音を立てているような、ある沈黙の瞬間を切り取ったものでしょう。
暖炉の火のゆらめきや木の爆ぜる音に促されて、自分でも思いもしなかったような言葉を何か、ふとした拍子に相手に言ってしまうのではないか。そんな自分の危うさを感じてハラハラしつつも、一方でどこかで本人もそれを楽しんでいるようにも感じられますし、相手にもそうした気配はそれとなく伝わっているはず。
そういう意味では、外面的にはひどく静かであるにも関わらず、内面的にはいたって騒がしくもあり、また、ぬくぬくとバターのようにこわばりがとけていく心理と、ひやひやして肝が冷えていくような心理といった正反対のものが奇妙に混在し、それが場に漏れ出し、浸食していくさまを、掲句は鋭い観察眼で写生してみせてくれているのだとも言えます。
12月13日にてんびん座から数えて「コミュニケーション」を意味する3番目のいて座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、卒のない言葉の応酬や予定調和的な会話の流れからはみ出していくような動きにみずから呼応しようとしていくところがあるでしょう。
既成の文脈を離れることの必要
村上春樹は1979年6月、小説『風の歌を聞け』で群像新人文学賞を受賞しデビューしましたが、その際、物語を当初は英語で書いてみたり、あるいは、いったん書いた物語をバラバラにし、シャッフルして再構成するという手続きを踏んでいったのだそうです。
彼はそこで何をしようとしていたのか。それについて、例えば次のように述べています。
結局、それまで日本の小説の使っている日本語には、ぼくはほんと、我慢ができなかったのです。我(エゴ)というものが相対化されないままに、ベタッと追ってくる部分があって、とくにいわゆる純文学・私小説の世界というのは、ほんとうにまつわりついてくるような感じだった。(『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』)
つまり、日本社会に蔓延していた空気感だったり、無意識のうちに体に染み込んでいた文脈を、言葉の単位まで分解・解体し、その上で体内にまったく異質の物質を再合成するかのごとく、物語を紡いでいったのです。
今週のてんびん座もまた、自分で紡いだ言葉や誰かとの会話を通して、これから新たに生きようとしている文脈の端緒を、相応の苦闘の末に見つけていくことができるはず。
てんびん座の今週のキーワード
これまでとは異質な生活世界が構築できるかどうか