てんびん座
ひょいとカオスをまとう
フーテンの俳味
今週のてんびん座は、『赤とんぼじっとしたまま明日どうする』(渥美清)という句のごとし。あるいは、決まりきった目的や行き先から自身を解き放っていくような星回り。
作者が言うように、赤とんぼは秋の日を受け、羽根を光らせて物干し竿やすすきの先などに「じっとしたまま」でいることがあります。
彼らはそのとき、何を感じ、何をしようとしているのか。例えば、鳥は木の上などで休息するときは羽をたたんでいますが、赤とんぼの場合は、羽根をピーンと張ったままなので、彼らの思考や感覚は鋭敏なまま、何か思案でもしているように映るわけです(実際には何も考えていないとしても)。
掲句では、ただ遠くからそんな赤とんぼを眺めたり観察したりしているところから、一歩踏み出して、お前さん、明日はどうするんだい、と(なんとなく優しく)呼びかけている。
もちろん、この呼びかけは自分自身に対するものでもあります。お互い、風に吹かれて流れていく身の上同士じゃないか、と。そんな密かな連帯感が、この句になんともいえない抒情味をもたらしているのでしょう。
作者は映画『男はつらいよ』シリーズの寅さん役で人気を集めた国民的俳優であり、みずからの俳号もその役柄からとって「風天」と称していました。同様に、11月5日にてんびん座から数えて「広範囲での活動」を意味する11番目のしし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、みずからに「明日どうする」と呼びかけてみるといいでしょう
ホームレスはカオスをまとう
例えば、都市のホームレスたちは、人の流れの死角や隙間、所有者がはっきりしない場所、空白の領域などを巧妙に見つけ、段ボールやベニヤ板、ビニールシートなどで組み立て式の家を造ります。
これは考えてみるとすごい能力で、本来なら就職面接などでも高く評価されるべきものだと思うのですが、彼らからすればそれはそれでとんでもないことで、「それじゃあお前さん、代わりにここに寝てみろ」という話でしょう。
段ボールという素材は、流通のための梱包材であり、その都市に住む人びとが日々何を食べ何を使って暮らしているのかということも、段ボールを見ているとある程度分かってきます。したがって、ホームレスの造る段ボールの家というのも、ある意味で“都市の無意識”から自然と生み出されてしまうものであり、それが何だとか、どれだけ価値があるものなのかと問うべき類いのものではなくて、ある日ふと気付くと、変わってしまっている、といった秩序を取り巻くカオスのようなものなのだと言えます。
その意味で、今週のてんびん座もまた、都市のホームレスたちのように、あらためてカオスを身にまとっていくことがテーマとなっていきそうです。
てんびん座の今週のキーワード
赤とんぼ、寅さん、ホームレス