てんびん座
現実をいかに歩くか
自然で柔らかなタッチ
今週のてんびん座は、『吹きおこる秋風鶴をあゆましむ』(石田波郷)という句のごとし。あるいは、現実に振り回されないだけの力を身につけていこうとするような星回り。
風がピューっと吹いてきて、それに押されるようにして鶴がすたすたと歩いた、というだけの写生句。目の前で起こったことを、見たままに、さらさらと一句に仕立てた印象を受けますが、案外、実際に作者が目にしていたのは地味でつまらない光景だったんじゃないかと思います。
掲句は動物園で作られたのだそうです。おそらく、俳句の題材を得るために行ったのでしょう。秋風の動物園で、やっと鶴が2、3歩あるいた、というだけ。しかし、作者はそんな、何でもないようなことを2つ組み合わせることで、風に吹かれて歩を運ぶ弦のやわらかな“感じ”をものにすることができた。言わば、作者が磨き続けてきた感受性と技術力の勝利です。
では、何に対しての勝利なのか。それは、現実のつまらなさや、何か特別なことなど期待通りには起きないというつれなさと言っていいかも知れません。現代社会では、テクノロジーが用意してくれたコンテンツに“依存”することで、それに対処している人が若者を中心に増えているそうですが、掲句を詠んだときの作者も23歳の若者でした。
24日にてんびん座から数えて「リテラシー(言葉を正しく読んだり書いたりできる能力)」を意味する3番目のいて座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、退屈な現実に精神まで囲い込まれてしまわぬよう、せいぜいあがいていくべし。
「裸足で歩く」ような体験を
長年にわたり日本人や日本社会を見てきた写真家のエバレット・ブラウンがつくったダジャレに、「日本人はクツを履いて、退クツ、偏クツ、窮クツになった」というものがあります。
実際、足裏にはたくさんのツボがあり、そこを靴下や靴で覆ってしまうと、血流が悪くなったり、足のセンサーが鈍くなって地面から発するマイナスイオンを取り込めなくなったり、かかとに重心がかかって後ろに転倒しやすくなったりなど、いろいろな意味でそもそもの生存能力が削がれていってしまうのだそうです。
確かにこれは感覚的にもしっくり来る話で、革靴なんかを履いてアスファルトの上を通勤する生活を続けていたときは、少しでも疲れたくないし、汗もかきたくないから、だんだん股関節を使わずに膝から下だけを前に投げ出し、滑っていくロボットのような歩き方になってくる。これを横から見ると、歩いているときの身体の軸が後ろ向きになっているんですが、いつの間にか身体だけでなく心の姿勢もまた“後ろ向き”になって、いつの間にか想像力も摩耗してしまう。
その意味で、今週のてんびん座もまた、“前向き”な心の姿勢をつくりだすべく、まずは自分の足元から見直していくべし。
てんびん座の今週のキーワード
「日本人はクツを履いて、退クツ、偏クツ、窮クツになった」