てんびん座
非情さの裏返しとしての切なさ
好き嫌いの冴え
今週のてんびん座は、『芍薬を剪(き)るしろがねの鋏(はさみ)かな』(日野草城)という句のごとし。あるいは、非情なる切断を敢行していこうとするような星回り。
茶席に飾る花の代表とされ、牡丹に似た艶やかな大輪の花を咲かせる「芍薬(しゃくやく)」は初夏の季語。掲句は一見すると、そんな草花を銀の鋏でもって剪ろうとしている、ただそれだけのことと思う人もいるかも知れません。
俳句は結びの下五が大事とはよく言われることですが、掲句においても、もし結びが「鋏にて」とか「鋏もて」だったなら、それは手段や材料を示し、ただ行為を叙述するだけの役割に終始していたことでしょう。そうではなくて、下五で「しろがねの鋏かな」とあえて焦点を絞って切れをつくることで、人間のもちあわせている非情な一面を描いてみせようとしたのではないでしょうか。
確かに、人間は「観賞用」などという自分勝手な都合で自然に生えている草花を切り刻むことがある。そして、それと同じような理由で、自然に芽生えつつある愛着や結びつきに従おうとする一方で、不要な縁をスッパリと断ち切ってしまおうとするのも人間の本質であるはず。
5月6日にてんびん座から数えて「色好み」を意味する2番目のさそり座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、何かを好いたり愛でたりする度合いを深めるべく、“それ以外”を大胆に切り落としていくべし。
切なさと感情の強度
例えば、いにしえの人々にとって、旅とは故郷や知り合いやこれまでの暮らしとの別れであり、もう二度と再会できないかも知れないという“決定的な断絶”さえ意味しました。だからこそ旅立ちは「切ない」ものであり、そこには確かなカタルシスがあった訳です。
ひるがえって、LINEやSNSを通じていつでも再会の機会を持ちえる現代社会では、目の前の誰かと「もう二度と会えないかも知れない」といったいじらしい緊張感は極限までゆるんでしまっていますし、それに応じて「感情の強度」もますます薄まってしまっているように思います。
すこしでも重力が弱まれば、星の運動が狂えば、もう二度と同じ夜空は見られないかも知れない。人と人とのかかわりも、本来はそれと同じなのです。だからこそ、過去でも未来でもない、今ここの1点に集中する。そして、伝えるべき思いがあれば、それを言葉にして伝えていく。今まぶたの裏に浮かぶ相手の像が失われてしまう前に。
今週のてんびん座は、そうした切なさの感覚を大切にするべく、何らかの切断に対する覚悟を深めていきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
切断は感情を強くする