てんびん座
失われた情緒を求めて
桜の再発見
今週のてんびん座は、『田にあれば桜の蕊がみな見ゆる』(永田耕衣)という句のごとし。あるいは、貴重な活動への解像度をグッと高めていこうとするような星回り。
ふつう「花見をする」という時、私たちはほとんどの場合、花びらだけを見ているのではないでしょうか。花見が遊びであり、消費活動である限り、実際の生産活動をしている雌蕊や雄蕊についてはおのずから盲目になっていくのかも知れません。
もちろん、「田にあれば」と詠んでいるからと言って、作者が田打ちまでしているとは思えませんが(おおかた田んぼのあぜ道にでも立っていたのでしょう)、いずれにせよ作者はここでこれまでとは違った桜の姿を再発見したわけです。
桜だって受粉をして、生産している。稀にではあるが、実をつけることだってある。それは蕊があればこそなのだ、と。いったんこうした見方が身に沁みてしまった人は、きっともう二度と花びらだけを盲目的に見つめることはできないでしょう。
その意味で、何かを真に発見するということは、世界の見え方が根本から変わってしまうということであり、それ以前の世界を喪うということでもあるのです。
29日にてんびん座から数えて「世間」を意味する10番目のかに座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、ひとつの重要な気付きを得る代わりにこれまで親しんできた盲目さを喪っていくはず。
右クリック機能の回復
例えば、スマホの登場は多くの人の行動パターンと思考回路を決定的に変えてしまいました。画面と入力と通信が一体になるなんて誰も予想していませんでしたから、それによって情報へのアクセスの仕方が一変してしまったのも当然の成り行きではあるのですが、一方でそんなスマホの登場によって失われてしまった機能もあまた存在します。
むろん、そのほとんどは無駄や面倒が占めている訳ですが、そうでないものとして恐らく筆頭に挙げられてくるのがマウスの右クリックではないでしょうか。
インターネットで未知の情報と直面した際、「検索」でとりあえず意味を調べたり、「ソースを表示」でその裏側や台本を盗み見たり。未知をいったんカッコに入れ、さまざまなコマンドを開ける右クリックは、その操作だけでどこか気持ちが昂ぶったものですし、言い方を変えれば、そこには先の「桜の蕊」にも通じる、効率や最適化とは別の“情緒”がありました。
今週のてんびん座もまた、いつのまにか自分が切り捨ててしまった失われたコマンドを改めて呼び出し、かつてあった情緒を温めていくことがテーマとなっていくでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
蕊があればこそなのだ