てんびん座
物語の改まり
キャットタワーは猫の夢を見るか?
今週のてんびん座は、『ぬるたまを吹きひとゆれの猫ばしら』(九堂夜想)という句のごとし。すなわち、自分という存在を夢見ている誰かどこかに思い至っていこうとするような星回り。
「ぬるたま」は「寝る魂」に由来する夢の異称で、「猫ばしら」とはキャットタワーのこと。猫ではなく、キャットタワーがまるで生きもののように夢を見るさまを描写しているのが掲句のユニークなところ。
確かにみなが寝静まった夜中や、窓からさんさんと日が差し込むしずかな午後のひと時などにリビングにいると、時どきキャットタワーがかすかにゆれていることに気づくことがある。直前まで中にいた猫の姿を見失ったがゆえにそう見えるだけかも知れないが、キャットタワーだって夢くらい見ることもあるだろう。
あるいは、かつてその中で眠っていたことのある猫のことを、キャットタワーはよく覚えていて、そうして時どき記憶の端くれをポッと吐き出していくものなのかも知れない。だとすると、今こうして文章を書いてる私だって、それを読んでるあなただって、どこかの家や土地が吐き出した夢であるという可能性だってまったくゼロではないだろう。
27日にてんびん座から数えて「ここではないどこか」を意味する9番目のふたご座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、おのずとそうした夢の起源へと遡っていくことになるはず。
希望の器官としての記憶
一般に、過去を変えることはできないと考えられています。してしまったことは仕方ない、取返しはつかないが、後悔しても何も変わらないと。ただ、そうであるとしたら、真面目な人であるほど何度も心を針で刺されるように過去に苦しめられ続けることになる。
ただ、記憶は果たして人間を苦渋に苛む神さまからの残酷な贈り物なのでしょうか。過去と未来は結託して現在を育てますが、もし過去が変えられるとしたら、記憶というものも希望の器官としての役割を担っていると言えるのではないでしょうか。
例えば、過去の恋人の不可解な行動が、後に起きたその恋人との破局と結びついたとき、過去はその相貌を改め、決定的に変わっていきます。つまり、過去の出来事は未来との関係において、同じ出来事として存在し続ける訳ではなく、両者を結びつける意図や物語が立ち現れたとき、その姿をあらためるのです(掲句の「ひとゆれ」というのも、そうした過去と未来とが結びつき、物語が改まったサインかも知れない)。
とはいえ、一方で私たちは未来と関わることがとても苦手です。なぜか。それは、過去の苦しみに対して「なぜ?」と問うことなく、都合よく忘れ去ってしまおうとするから。その意味で今週のてんびん座は、未来に視点を置きつつ過去や進行形の現在に「なぜ?」と理由を問えるだけの勇気を奮い立たせていくことがテーマとなっていくことでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
夢に歩み寄る