てんびん座
何も考えないところまで戻るには
人間的都合への無頓着
今週のてんびん座は、深沢七郎の薄情的爽快のごとし。あるいは、人間の手前勝手な主張や駆け引きなど思いきりスルーしていこうとするような星回り。
約50年前に刊行された作家・深沢七郎の人生相談本『人間滅亡的人生案内』には、例えば、来年大学受験を控える18歳の男性の、自分が考えついたことを自分が本当にしたいのかどうか自信がない、といったきわめて現代的な悩み相談がすでに数多く寄せられています。
いわく「今の生活は死ぬのが恐いから、だから生きているって感じ」で「つまらないし、さみしい」から、何か「アドバイスあるいは、サジェスション、また仕事の楽しさ、愛の喜び―何でも良いです。言葉をかけてください」と。そう訴える青年に対し、深沢は「生きているのは怖いからは満点です」と持ち上げつつも、次のように答えるのです。
貴君にかける愛の喜びの言葉なんてものは存在しません、ありません。アドバイスとしては何も考えないことです。何もしたくないそうですがそれが最高です。何かしようとする。何かすれば誰かが「悪いとか」「良いとか」認めます。何もしなければそれも「悪い」と言われるかも知れません。最高の生活でも態度でも社会という奴は妙な眼で見ます。社会的に偉いとか認められた人に私は好きな人物はありません。「社会が悪い」という言葉はそういうことに使う言葉だと私は思います。
どこかで深沢は人間は滅びてしまって良いと書いてた気がしますが、それは人間なんて最低だと考えている訳ではなくて、むしろ「人間の生き死にはちゃんと虫の生き死にに匹敵する」というニュアンスでそう考えているのでしょう。普通の人なら、どこか無条件で人間は虫より偉いと思ってしまうところが、深沢にはそれがない。当然、「社会的な偉さ」なんて信じてやいないはず。したがって、彼は人間の手前勝手な相談にはあくまで無責任に、薄情に答えるだけであり、相談者の望む解決になんか話を向ける気はなく、だからこそ相談者も安心して相談してくるのです。
2月6日にてんびん座から数えて「風穴」を意味する11番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、深沢ほどまでとはいかずとも、人間の目論見になどあくまで無頓着を心がけていくくらいでちょうどいいでしょう。
無力でポンコツな私から始める
私たちは無意識のうちに「本能だけで生きている他の生物たちよりも、文明を持つ人間は優れている」とどこかで考えていますが、心理学者の岸田秀は真実はむしろその逆なのだと言っています。
人間は決して動物より高等な生物ではないし、むしろ「人間は本能の壊れた動物」であり、動物と比べて感覚もずっと鈍いし、特質すべき武器や防具も持ちあわせていないポンコツであるがゆえに、文明を作らざるを得なかったのだと。
人間は日常生活をひっくりかえすために戦争をする。そのことによってわれわれがいかに日常生活を憎んでいるかがわかる。(『ものぐさ精神分析』)
人間が本当の意味で憎んでいるのは、きっとおのれの無力さでしょう。その意味で、今週のてんびん座は、自己をめぐる真実を少なからず垣間見ていくことで、またゼロから再出発をはかっていくことができるはず。
てんびん座の今週のキーワード
無力ゆえに賭けに出れる