てんびん座
他界にまなざしをひらく
死者のまなざしが重なるとき
今週のてんびん座は、すぐそこにある「草葉の陰」のごとし。あるいは、あの世の呼吸と背中合わせになっていくような星回り。
亡くなった先祖や守護霊のことを、日本語ではよく「草葉の陰から見守っている」などと表現しますが、たとえば、柳田國男の『先祖の話』によれば、そうした日本特有の「あの世」観には4つの特徴があるのだそうです。
1.ひとは、死んだあとでも、この国のなかに、霊としてとどまる。この国から超絶した彼方に往くとは、思っていない。
2.あの世とこの世という幽顕二界のあいだの交通が、頻繁におこる。定期的な祭りばかりではなく、死者からも生者のがわからも、招き招かれるという生死往還、彼此往来が、そんなに困難なことではなかった。
3.生前の念願は死後にも達成される。だから死者は、子孫のためいろんな計画を立てて、子孫を助けている。
4.死者はふたたび、みたびこの世に再生すると思っていた者もおおかった。
つまり、なにか特別な別世界などというものはなくて、もし他界にひらくまなざしがあるとすれば、それはこの世を見ている(ただし別角度から)というわけです。だとするなら、私たち生者のまなざしの中に死者のまなざしが重なる瞬間というのは、そう珍しいことではなく、日常的に起きていることになります。
1月23日にてんびん座から数えて「小さな死」を意味する8番目のおうし座で約5カ月間続いた天王星の逆行が終わって順行に戻っていく今週のあなたもまた、そんな風に死者の存在や彼らなりのまなざしに改めて触れていくことがテーマとなっていきそうです。
星と石
社会学者のロジェ・カイヨワが生前最後に残した著書であり、ギリシアの川神に託して自らの思想の遍歴を語った『アルペイオスの流れ』には次のような記述が出てきます。
私は石が、その冷やかな、永遠の塊りの中に、物質に可能な変容の総体を、何ものも、感受性、知性、想像力さえも排除することなく含みもっていることに気づきつつあった。
と同時に、絶対的な啞者である石は私には、書物を蔑視し、時間を超えるひとつの伝言を差し出しているように思われるのだった。
星占いでも人間の中に星を読みますが、やはり時にこうした「石」の差し出す意図が読み取れる時があります。
いかなるテキストももたず、何ひとつ読むべきものも与えてくれぬ、至高の古文書、石よ……(同書)
人はときどき自身の中に驚くべき沈黙を見出し、その前にひれ伏すのでも、踏みつけるのでもなく、ただそばに在っておのずから語り始めるのを待たなければいけない状況に直面するのですが、ここで言われているような「石」とは先の柳田が「死者」や「先祖」と呼んだものと限りなく近いようにも思われます。
今週のてんびん座もまた、すぐに意味が分からない出来事や相手に対して、いつも以上に慎重かつ粘り強く関わってみるといいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
石ころ、ころころ