てんびん座
必要な犠牲を受け入れる
本を書ききるために
今週のてんびん座は、まるで臨終の友人のそばに座るよう。あるいは、いつのまにか深く巻き込まれてしまった関係に、思い切ってメスを入れていくような星回り。
いきなり重苦しい表現を持ち出して申し訳ないですが、これは名エッセイストで知られるアニー・ディラードが『本を書く』という本のなかで、本を書くという営みを喩えて使った表現で、そこにはこう書かれています。
私は本を書くというよりも、まるで臨終の友人のそばに座るように、原稿のそばに座って過ごす時間の方が長い。面会時間に、私は相手の不調に対する恐れと同情心で心をいっぱいにしてその部屋に入る。その手を握り、回復するように願う。
多少、文章と格闘した経験がある人なら、ここまで読んでこのまま何事もなく終わるはずがないということは分かっているはず。さながらドラマの展開のように、アニーはこう続けます。
この優しい関係は、一瞬のうちに変わり得る。一日か二日訪ねなければ、やりかけの仕事はあなたに襲いかかってくる。やりかけの仕事はあっというまに野生に戻る。一晩で原始の状態に立ち返るのである。それは飼い馴らされたばかりで、先日、端綱を結んでおいたが、今や手に負えなくなってしまったムスタング(野生化した小型馬)なのだ。
そう、荒ぶるムスタングに人間社会の常識やなれ合いは通用しないように、やりかけの原稿、書き途中のテクストというのは、しばしば書き手の手に負えなくなる。そうなったときに思い切ってほとんどボツにするか、ごく一部のみをかろうじて残す程度に処置することができるのが文章家というものなのだとアニーは語ります。
同様に、5月5日にてんびん座から数えて「深い関わり」を意味する8番目のおうし座で「突き放し」の天王星と「主体性」の太陽が重なっていく今週のあなたもまた、失うことや人間関係の思い切った転換を恐れず、みずからの“コンテクスト”に寄り添っていくべし。
計画された死の先で
例えば人体が新陳代謝していく際に、不要となった細胞があらかじめプログラムされた細胞死を起こしておのずから除去されていくことを「アポトーシス」と言いますが、今週のてんびん座は言わばそうしたアポトーシス的なプロセスの最中にあるのだとも言えます。
人間以外では蝶が変態していく場合にも、唾液腺などの幼虫器官が、成虫を形づくるための養分となっていくのだそうで、「アポトーシス」がしばしば既存の文脈や関係性の異化や転倒を伴なうことも珍しくないようです。
とはいえ、生物が真に恐れているのは、いつまでも変化せずに現状が固定され続けてしまうこと。そういう意味では、あらかじめ意図し、計画された死を潜り抜けていくこともまた、生きものにとってごく自然な展開なのであり、それこそが今のあなたに必要なものだと言えるでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
文章家の覚悟