てんびん座
郷愁と隠遁
香ばしい郷愁
今週のてんびん座は、「遊星的郷愁」という言葉のごとし。あるいは、遠い彼方とすぐそばの此方との間がグーっと開けていくような星回り。
これは編集工学研究所の松岡正剛が、26歳で『遊』という雑誌をつくったときに、雑誌のコンセプトとして考えた言葉なのだそう。
もともとは松岡がSF作家のJ・G・バラードにインタビューした際に、夕暮れ時のロンドンの郊外の彼の小さな家で「松岡さん、ここが宇宙の郊外なんですよ」と言われた時の感覚をあらわしたのがこの言葉で、宇宙の郊外というのは地球のことなんです。
私は、あなたは、宇宙の郊外であるとても小さな地球の、そのさらに片隅に住んでいるんだという、そういう気持ちを思い出したのでしょう。
バラード自身もまた、宇宙を見ていないのに宇宙の話をするような、それ以前の古典的SFに異を唱え、現実社会のなかの宇宙、都市のなかの天体、人びとの気持ちのなかの星というものを描こうとした人でしたから、そういう郷愁こそが香ばしんだということが、より胸に迫ったのだと思います。
同様に、3月10日にてんびん座から数えて「彼方の行方」を意味する9番目のふたご座で上弦の月(行動の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、自分は世界の中心にいるのではなくて、この世界のほんの片隅に佇んでいるに過ぎないという感覚を取り戻していくでしょう。
隠遁事始め
方丈記の昔から、この国にはたとえ人生でどんなに栄華を極めようと、最後は世俗の名声や家庭を捨て、粗末な庵を編んで、つつましやかに暮らしながらひとり最期を待つのが何よりの幸せとする「隠遁者」という理想がありました。
今やそうした理想は、歴史上の過去の出来事として現実味を欠いた絵空事のような扱いを受けるようになってしまいましたが、今でもそうした理想に向かって人生をたえず整えたい、踏み出していきたいと考えている人たちは一定数いるのではないでしょうか。
ただ現代における「隠遁」とは、中世の頃とは打って変わって、静かな山里でのあからさまな社会離脱や人間離脱にあるというより、慌ただしい街の中でうまく隠れたり、上手にサボったり、お上を欺いていくことのなかに、そうと分からないような仕方で宿らせていくものへと変貌してしまったように思います。
今週のてんびん座もまた、そうして勤勉さや生産性をたえず要求してくる街の中で、上手に隠れる「ずる賢さ」をこそ発揮していきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
隠遁術としての「マリーシア(審判に分からないように行う駆け引き)」