てんびん座
荒野を取り戻す
謎の感覚の喪失と肉体の鈍感さ
今週のてんびん座は、みずからの手で土からミミズを掘り出す少年少女のごとし。あるいは、大きな謎の残る<ファイナル・フロンティア>を取り戻していくような星回り。
かつて「性」が人びとの口に乗ることがまだ稀で、ほとんどタブーに近かった頃、性は夫婦や恋人など近しい間柄の人間にとってまさに「荒野」として存在しており、理性の光やそこから演繹された常識や一般論では照らし出すことのできない領域として、二人の人間の肉体による試行錯誤と煩悶のみがそこで許されていました。
ところが、いつしかこの荒野も資本主義や消費文化という名のトラクターですっかり平らにされてしまい、すっかり性という領域が目をつぶってでも歩きまわることのできる家の庭か近所の公園にまでなり下がってしまったのです。
当然ながら、荒野を失った人間の感覚は鈍っていくばかりであり、そうした領域で直接手を汚す機会が減ったことと比例するかのように、そこに広がる土壌やその下に埋まっているものに対する謎の感覚も人びとは失いつつあるように思います。
しかし一方で、昨今では肉体が「もっとも身近な自然」として再発見されているように、性自認やジェンダーをめぐる議論を通じて、性についてもまた、改めて人類に残された<ファイナル・フロンティア>としての本質が思い出されつつあるように思います。
2月8日にてんびん座から「小さな死」を意味する8番目のおうし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、消費文化によって刷り込まれたニセの知識などかなぐり捨て、スコップを片手に庭を掘り返していた子どもの頃のように、謎の感覚をもって性に相対してみるといいでしょう。
本能の壊れた動物
私たちは無意識のうちに「本能だけで生きている他の生物たちよりも、文明を持つ人間は優れている」とどこかで考えていますが、心理学者の岸田秀は逆なのだと言っています。
すなわち、人間は決して動物より高等な生物ではないし、むしろ「人間は本能の壊れた動物」であり、動物と比べて感覚もずっと鈍いし、特質すべき武器や防具も持ちあわせていないポンコツであるがゆえに、文明を作らざるを得なかったのだと。
人間は日常生活をひっくりかえすために戦争をする。そのことによってわれわれがいかに日常生活を憎んでいるかがわかる。(『ものぐさ精神分析』)
人間が本当の意味で憎んでいるのは、きっとおのれの無力さでしょう。そして、力を持った存在でありたい、その力で他者を支配したいという欲望は、男性であれ女性であれ人間であれば誰しもが持っているものです。その点、今週のてんびん座であれば、そうした自己をめぐる真実を少なからず垣間見ていくことができるはずです。
てんびん座の今週のキーワード
無力であるがゆえに人は交わろうとする