てんびん座
振り出しに戻ろう
※1月10日〜16日の占いは、諸事情により休載いたします。誠に申し訳ございません。次回は1月16日(日)午後10時に配信いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。
おわりとはじまりが交錯するとき
今週のてんびん座は、「湯気立てて来世のやうに二人をり」(櫂未知子)という句のごとし。あるいは、いのちの洗濯をしていくような星回り。
どこかの温泉にでもいった時の光景なのか。現実の景色であるはずなのに、湯気を隔てた向こう側に背格好だけがおぼろげに醸し出されるかたちで2つの人影を目にしたとき、おもわず作者の脳裏に「来世のよう」という比喩が浮かんできたのでしょう。
もしかしたら、三途の川の向こう側には現世の疲れを癒す、こんな天然の露天風呂があるのかも知れません。そこでは見た目や肩書きや特筆すべき個性などによってさかしらに品評されることもなく、同じくいのちの尽きかけた身として互いの労をねぎらい、来し方行く末についてほんの二言三言の言葉をかわす。
そこからよっこらしょとまたもとの世界に戻るのもいれば、ここらでさっぱり線を引こうと湯気の向こう側へと消えていくのもいる訳ですが、きっとそんな両者を分けるのは、あの世の風呂では流しきれなかったほんの些細な思いの有り無しで、大げさな思想信条や主義主張などではないはず。
2022年1月3日にてんびん座から数えて「ひとつの終わり」を意味する4番目の星座であるやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、慌ただしく何かを新しく始めてしまう前に、改めてこれまでのことを水に流す機会を設けてみるべし。
「床下」への想像力
例えば職人やアーティストなどは、年を取ることごとに技術的にはうまくなっていって安定感は出てくるけれど、逆に当初持っていた荒削りの魅力や勢いは失われてしまうという人がほとんどなのではないかと思います。
これはいかに表現者として成熟していくということが難しく、ある程度のところで小さくまとまってしまうかという話でもあり、思想家の吉本隆明はかつてそうした大部分の人について「床板の上で仕事をするようになる」と評していました。
逆に、例外的に成熟し続けることのできた夏目漱石やドフトエフスキーなど、年を追うごとに世界が深まっていった数少ない表現者たちは、絶えず「床下」のことを考えていて、いったんもうこれで安泰だなという「床上の世界」が出来上がっても、何度も何度も「床板を踏み抜いて」しまうのだと。ここからは想像になりますが、おそらくその床を踏み抜いた先には、掲句のような光景が広がっていたのではないでしょうか。
その意味で、今週のてんびん座もまた、「一から出直す」という機会を自分で創っていけるかどうか、という局面を何かと迎えていきやすいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
成熟のきっかけ