てんびん座
軽やかに、残酷に
こちらは4月12日週の占いです。4月19日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
トリックスターの系譜
今週のてんびん座は、「メティス(狡知)」のモデルとしてのタコのごとし。あるいは、いっそ悪党になり切っていこうとするような星回り。
古代ギリシャの哲学者たちのあいだでは徹底的に低く見られた一方で、商人とソフィスト(職業的知識人)には高く評価されたのが「メティス」でした。基本的には軍略や戦略に関係し、相手を騙して自分の役に立つように利用したり、出し抜いたりする、いわゆるずる賢さのことなのですが、ベルギーの宗教学者マルセル・ドゥティエンヌはそうしたメティスの起源について興味深い指摘をしていました。
ギリシャ神話ではゼウスの知恵の源ともされるメティスの起源はタコなのだと言ったんです。それから、アンコウとか、イカとか。つまり、突然口から墨を吐いて逃げたり、知らんぷりして近づいていって高電圧で相手を倒すとか、とにかく卑怯なマネをして、戦略を立てて勝つというのがメティスで、最後は「こいつはどうしようもない悪者だ」という印象を残して去っていく。
つまり、暗い神秘主義の神様で、平気で関係者も殺してしまうような、こんなに恐ろしいものはないというくらいの悪党なんです。現代の知識人というのは、ほとんど人気商売ですからあまりこういうメティスは受け入れられなくなりましたが、自然界の秩序を破って新たな物語を展開するトリックスターというのは、本来そういうものだったのでしょう。
12日にてんびん座から数えて「駆け引き」を意味する7番目のおひつじ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、ある種の商いの感覚をよみがらえさせていくべし。
泥棒猫の足どりで
夏目漱石は『吾輩は猫である』の中で、「のんきと見える人々も、心の底をたたいてみると、どこか悲しい音がする」と書いていましたが、例えそうだとしても、ほとんどの人は自分の出している心の音に無自覚なものです。さらに言えば、一体それがどこから鳴っているのか、という話になるともうほとんどお手上げでしょう。
一方で、誰かに心から寄り添おうとするとき、人は自然と相手の悲しい音の出所を敏感に感じ取っていくものです。その際もちろん、ドタドタと大きな音を立てて近寄っていけばつかめませんから、自然と抜き足差し足忍び足でそっと近くまでいって、何度か通り過ぎて、ああ、ここだったのか、とやっと察知することができる。
だから「泥棒猫」などと言うように、猫は泥棒の鑑であって、家のどこから入ってどこに大事なものがしまってあるか、自分のどこから悲しい音がしているのか、見抜いていながら、分かっていながらも普段知らんぷりしている訳です。
今週のてんびん座も、ひとつそんな猫になったつもりで、内から外から、そっと誰かの心が出している悲しい音に忍び寄っていきたいところです。
今週のキーワード
ヘルメス