てんびん座
円環的調和
この世の純粋な楽しみ方
今週のてんびん座は、「雪解川でんぐり返るつんのめる」(山口隆右)という句のごとし。あるいは、ちょっとしたことに驚き、心弾ませる子どもの心を取り戻していくような星回り。
舞台はおそらく雪国の大河。春になって日差しが暖かくなり、北風にかわって東から吹く風に変わると、それが雪解(ゆきどけ)をさらに促していきます。「でんぐり返る」も「つんのめる」も慌て者の姿態ですが、ここでは水の流れの勢いを描写しているのでしょう。
ただそれは「我先に、先を競って」というよりも、あまりに喜びの大きさが先行して、体がついていかずに足元がもつれて、といったニュアンスのように感じられます。
つまり、慌てているように見えた姿態は自然そのものの本質というより、やはりそれを見つめる人間の側の心理に帰せられるのだということ。作者はどこかそんなまなざしの反転を早春の風物として楽しみ、一緒になって心弾ませているようです。
きっと自然と人間、運命と自由意志のバランスが今よりずっと前者に傾いていた時代においては、そうした楽しみこそが生活の苦しみを救ってくれる何よりの処方箋であり生活人としての趣味だったのではないでしょうか。
その意味で、12日にてんびん座から数えて「楽しみや趣味」を意味する5番目のみずがめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、いつの間にか忘れていたこの世の純粋な楽しみ方を思い出していくことがテーマとなっていくはず。
連続する波の一部として
トルストイは『人生論』という著書の中で、死後の生ということを一生懸命考えているのですが、そこには次のような一文が出てきます。
人間は、自分の生が一つの波ではなく、永久運動であることを、永久運動が一つの波の高まりとしてこの生となって発現したに過ぎぬことを、理解したときはじめて、自分の不死を信じるのである。
普通、死後に残るのはその人の思い出だけですが、トルストイはそうではないと言っています。ひとつひとつの「波」はあくまで大きな海潮の一部であり、海流としての自分(世代を超えた働きかけ)という視点で生きることができた場合、その人が死んで肉体は滅びたとしても、世界に対して作られた関係によって、より一層その働きが力強くなることもあるのだと述べています。
こうした視点を踏まえると、冒頭の句の解釈もより一層深まってきます。「雪解」は毎年毎年繰り返され、その度に川は新たな波を立たせてほとばしってきたのでしょう。
今週のキーワード
永久に繰り返される運動との調和