てんびん座
交替幻想
※当初の内容に誤りがありましたので、修正を行いました。ご迷惑をおかけし大変申し訳ございません。(2021年1月25日追記)
鮟鱇の笑い声
今週のてんびん座は、「出刃を呑むぞ鮟鱇は笑ひけり」(阿波野青畝)という句のごとし。あるいは、得体の知れない自分がのそりのそりと歩きだしていくような星回り。
鮟鱇(あんこう)は愛嬌のある大きな頭に、大きな口をもつ深海魚。中でも、提灯のような触覚をぶらさげたチョウチンアンコウは、さながら深海の灯火のようであり、いかにも百鬼夜行の一群からぬっと脱け出してきたような風貌です。
掲句ではそんな鮟鱇が、出刃を吞んでやるぞと凄んで笑ったとのだという。もちろん、これは作者のある種の幻想だろうとは思いますが、冬場に鮟鱇鍋でもいただこうといざ包丁をもって相対した際、ナマの鮟鱇に一寸怯んでしまった心が見せた幻影と考えると納得がいく気がします。
逆に言えば、そうまでして鮟鱇を食べ尽くした後の自分というのは、もはや食べる前とは別人のように―それこそ鮟鱇のごとき妖怪に近い存在になっているのではないでしょうか。その時、飲み込んだはずののどの奥の闇の中で、鮟鱇の笑い声だけが響いていく。
29日にてんびん座から数えて「少し先の未来ビジョン」を意味する11番目のしし座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、あと数カ月もすれば全く予想もしていない姿になっているかも知れない自分自身の片鱗を感じていくことができるかも知れません。
自分が入れ替わる予感
隆慶一郎さん原作の『影武者徳川家康』は、主人公であるはずの徳川家康が実は関ヶ原の戦いで開戦早々に暗殺されてしまい、その場の機転で影武者と入れ替わり、そのまま徳川家康として生き続けていくというところから物語が始まっていきます。
影武者の名は、世良田二郎三郎元信。もともとは芸能や各種専門技能に携わりつつ全国を自由にさすらう「道々の輩(ともがら)」という賤民階級の出身で、ひょんなことから拾われて家康の影武者を10年間つとめた末の交代劇でした。
もちろんこの作品はあくまでフィクションではありますが、名前は以前とまったく同じでも、中身はまったくの別人へと変わってしまう機会というものは、人によっては人生には何度か用意されているものなのかも知れません。
今週のてんびん座もまた、少し先に待ち受けているであろう人生の分かれ道や、別人への交代劇の予感が不意に湧き出してくるなかで、何事もなく過ぎていく日常が今後も変わることなく続いていくであろうという自己催眠がうすれていくことでしょう。
今週のキーワード
予知夢