てんびん座
速度とリアリティ
※2021年1月4日~1月10日の占いは休載とさせていただきます。(2021年1月3日 追記)
ねぎらいと余白
今週のてんびん座は、「スクリューを船より外し年用意」(棚山波朗)という句のごとし。あるいは、まっさらになって新年を迎えていくような星回り。
年内の漁が終わり、年はじめの初漁までは海に出ない。そんな時、漁師たちは陸に漁船をあげて、船尾のスクリューを外してやるのだと言います。
漁師にとって、漁船はいのちの次に大事な仕事道具であり、体の一部と言っても過言ではないでしょう。一年間よく働いてくれたことに感謝して、休ませてやる。スクリューは船の推進力の源であり、取ってしまえば船はもはや船ではなくなります。
それはつまり、漁師が漁師でなくなり、ただの人間に戻るということ、そしてそれを海神に分かるように示すという古い信仰の名残なのかも知れません。
農業においても、翌年に種を撒くことができるように耕作しないままにしておく休耕期間があるように、漁師にも、いやそもそも人間には特別な余暇や安息日が必要なのでしょう。
30日にてんびん座から「社会的自己」を意味する10番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、肩書きや役割から離れたところで、ひとりの人間としての自分自身を取り戻していく時間を大切にしていきたいところです。
漁民はよく歩く
漁民に限らず、昔の人はとにかくよく歩いたと言います。個人的にも、子供の頃に親戚のおばさんの家へ遊びに行った際、ちょっとそこまで花火を見に行こうと言われ気軽な気持ちで付いていったら、なんだかんだと二つの山を越えさせられて、花火を見る頃にはすっかりくたくたになってしまった思い出があります。
おそらく、地図の上で考えれば、実際そんなに大した距離ではなかったのだと思います。ただ、子供の頃の自分にとってはとてつもない旅であり、山を越えるたびに世界がどんどん変わっていったのをよく覚えています。それはおそらく、場所から場所への距離感は同じでも、高速移動やハイスピードに慣れ、電車やバスや自動車の速度で物事を感じたり考えたりするのが当たり前になってしまった現在の自分には見えてこない風景なのでしょう。
今のてんびん座もまた、徒歩には徒歩なりの思考があり、一方で船にも船なりの思考があるのだということを、どうか思い出してみて下さい。
そして普段とは異なる速度や仕方で自分の現実について考えてみることで、「迅速性」や「効率」といった都市的な価値観からこぼれ落ちていたものが不意に目に飛び込んでくるでしょう。
今週のキーワード
移動から現実を捉える